WEC世界耐久選手権、第3戦ル・マン24時間(開催地:フランス、サルト・サーキット、開催期間:6月15~18日)の決勝レースが、現地時間6月17日から18日に掛けて開催された。
決勝にあたってTOYOTA GAZOO Racingの「トヨタ TS050 HYBRID」#7号車がポールポジションを獲得。当初は、これを追うポルシェ勢との激しい一騎打ちを想定していたのだが、その結果は、誰もが予想しなかったレース中盤を経て、意外なエンディングを迎えることになった。
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今年85回を迎えた同レースは、先の通り波乱の展開となり、ポルシェAGが出走させた「919ハイブリッド」#2号車(アール・バンバー/ティモ・ベルンハルト/ブレンドン・ハートレー)が、最終盤にようやくトップに浮上。同ブランド19回目のル・マン24時間の総合優勝を達成した。
6月17日の午後3時・気温29度という炎天下でスタートが切られたル・マン、サルト・サーキットは、気温29度という想定外の炎天下の元、決勝日を迎えた。
決勝では、予選セッションでポールポジションを獲得していた「トヨタ TS050 HYBRID」#7号車が首位を保ったままスタート。
2位・ポルシェ#1号車、これにポルシェワークスチーム並びにTOYOTA GAZOO Racingチームが続く体制で始まる。その後、12周目のピットストップを契機にトヨタが1-2体制になるという展開で、誰もが想定した通り、トヨタ陣営とポルシェ陣営の鍔(つば)迫り合いが開始される。
その後、激しく追い上げて後方集団から抜け出てきたトヨタ#9号車が、他車が落としたパーツを拾って車両前部を破損。この際は、改修を経てコースへ復帰できた。
しかし今度は104周目に、2位に浮上していたトヨタ#8号車が125周目になって、前輪ハイブリッドモーターのトラブルが発生。これによるフロントモーターとバッテリーユニットの交換作業に2時間のピット作業を要したことで、上位集団から転落する。
さらに日付を跨いだばかりの18日の深夜1時。首位キープを確かなものとしていたトヨタ#7号車が、クラッチトラブルでピット前を通り過ぎた後のコース上でまさかのストップ。その後方を走っていたトヨタ#9号車も、他車からの追突で駆動系破損によるストップする。
対してポルシェ勢は、この期に乗じて#1号車が首位に立つ。しかしそのまま朝を迎えた同車は、首位でゴールすると思われた318周目に、なんとオイルプレッシャーによる不具合発生でストップを喫する。
これにより一時、レースのリーダー役を失ったル・マン24時間は、下位LMP2クラスから出走していたジャッキー・チェンDCレーシング#38号車が首位を独走。
これにSignatech Alpine Matmutの#13号車、並びにジャッキー・チェンDCレーシングの#37号車と、LMP2クラスの車両がLMP1を押しのけて上位を走るというまさかの展開に。
そして最終盤にLMP1クラスの意地を見せたポルシェ#2号車(アール・バンバー/ティモ・ベルンハルト/ブレンドン・ハートレー)が残り1時間07分の時点で、ジャッキー・チェンDCレーシング#38号車を辛くも抜いて総合首位に躍り出る。
1 hour 7 mins left, #2 @Porsche_Team passed #Mighty38 @DCRacing_Team @JotaSport and now the race leader. #LeMans24 #WEC pic.twitter.com/qDIorJZSpO
— FIA World Endurance Championship (@FIAWEC) June 18, 2017
結果、そのままポルシェ#2号車がチェッカーフラッグを潜り抜け、昨年に続き2年連続でル・マン24時間レースを制覇した。
今回、3台体制と万全とも云える体制で、ル・マンに挑んだトヨタ勢は、#8号車(中嶋一貴/セバスチャン/ブエミ/アンソニー・デビッドソン)が総合9位(クラス2位)で完走。7号車と9号車はリタイアとなってしまった。今年のル・マンは総じて、最強・最新鋭LMP1クラスのハイブリッド車達が、マシントラブルで泣かされた一戦となった。
以下はトヨタ陣営の内山田会長・豊田社長からのコメントとなる。
トヨタ自動車・代表取締役会長 内山田 竹志氏
TOYOTA GAZOO Racingのル・マンでの戦いに大きな期待を寄せ、熱い熱い声援を送っていただいたファンの皆さまに感謝の気持ちと、申し訳ない気持ちの両方で今、私は満たされています。
皆さま、本当にありがとうございました。そして、期待に応えられず申し訳ありませんでした。
昨年の走り切れなかった3分を取り戻そうという気持ちは、我々だけでなく、ファンの皆さまも同じだったものと思います。
私自身、何度も、このル・マンの地に来ていますが、レースが始まる前から「トヨタ!トヨタ!」という声が、これほどまでに聞こえたことはありませんでした。
そして、夜遅くなり、我々が1台だけの戦いとなってからも、トヨタのピットの向かい側には多くのファンが残ってくださっており、旗を振り続け、声援を送り続けてくださいました。
おそらく、日本でも、画面の前で同じようにしていただけていた方が沢山いらっしゃると思います。
その皆さまとゴールの瞬間を笑顔で迎えたいと、この1年間、それだけを考え、エンジニア、メカニック、そしてサプライヤーの皆さまが心をひとつに、ワンチームになって努力を重ねてまいりました。
しかし、それが果たせなかったこと、本当に悔しく思います。
準備をどれだけ重ねても、レースでは、やはり想像しえないことが起こります。
7号車、8号車、9号車に起きたそれぞれの不具合やトラブル…残念ですが、私たちには、まだまだ足りないものが残されていました。
しかし、1台だけになっても、少しでも長く距離を走ろうとプッシュし続けた8号車の“闘志”や“諦めない気持ち”は、私たちに残された大事なパーツです。
“諦めない気持ち”で、足りなかったものを、再び探し集め、また来年、この場に戻ってまいります。
もう一度、我々にご声援を送っていただければと思います。
応援いただいた皆さま、本当にありがとうございました。
トヨタ自動車・代表取締役社長 豊田 章男氏
「思いっきり走らせてあげられなくてゴメン…。」
本来であれば、応援いただいたファンの皆さまへの感謝の言葉が先ず最初に発せられるべきですが、 今回のル・マンだけは、どうしても…この言葉を私からドライバー達に一番に掛けてあげなければいけないと思っています。
ドライバー達は、初めてル・マンに来る私に、「一緒に表彰台の真ん中に上ってほしい…」「そのために絶対に負けたくない…」「だから共に戦ってくれ…」と言ってくれました。
だからこそ、私からは、「思いっきり走れ。メカのつくったクルマを信じて、ル・マンを楽しんで。」という言葉を返していました。
それなのに、思いっきり走らせてあげることが出来なかったことが本当に悔しい…私たちのクルマを信じて走ってくれていたのに…本当に申し訳ない…。その気持ちでいっぱいです。
おそらく、この気持ちは、この戦いに向けクルマをつくってきたトヨタのエンジニア、メカニック、そしてパーツサプライヤーの方々、皆、同じ想いなのだと思っています。
なので、そのみんなの気持ちも背負い、代表して、ドライバー達へもう一度、改めて言います。
「思いっきり走らせてあげられなくてゴメン…。」
そして、その9人のドライバー達も含めて、トヨタチームに関わった全ての人の想いを二つ、私から述べさせてください。
ひとつは、ファンの皆さまへ。
トヨタの勝利を信じて応援してくださったファンの皆さま、期待に応えられず本当に申し訳ありませんでした。
そして、24時間、最後まで我々を信じ、熱く応援いただけたことに心から感謝申し上げます。本当に、ありがとうございました。
再び、皆様と共に笑顔になれる日を目指してまいります。
ひとつは、ポルシェチームへ。
昨年の戦いの後、ポルシェの皆さまから我々をライバルと認めて頂けるような嬉しい言葉を数々いただきました。
“ライバル”と言っていただけたことに応えるためには、今年また、ファンの皆さまを魅了するような素晴らしい戦いをさせていただくことだと考えていました。
だからこそ、チームは新しい技術・技能を生み出すことにも果敢にチャレンジして来ることができました。
ポルシェチームの皆さま、おめでとうございます。
そして、ありがとうございました。
しかし、昨年のようにファンの皆さまを魅了させるような戦いを実現することが出来ませんでした。
今回、ポルシェも、我々トヨタも…ル・マンの道に挑んだハイブリッドカーは24時間を無事に走り切れませんでした。
優勝した2号車でさえも、完走した我々の8号車もトラブルにより時間のかかる修理を余儀なくされて、ようやく辿りついたゴールでした。
世界耐久選手権を通じて高めてきたハイブリッド技術は、6時間レースでは、その能力を発揮しきれても、ル・マン24時間の道のりでは、まだまだ歯がたたないということかもしれません。
電気の力は、クルマがもっとエモーショナルな存在になるために絶対に必要な技術です。ル・マンは、その技術に挑戦し続け、極限の環境で試すことの出来る貴重な実験場です。
これからも、この場を、大切にしていきたいと思います。
もっともっと技術に磨きをかけ、熟成させ、お客様に本当に笑顔になっていただける技術を…そしてもっといいクルマづくりを続けるために、これからも我々トヨタは、努力を重ねてまいります。
皆さま、ご期待いただければと思います。よろしくお願いいたします。