新井敏弘選手、SUBARUの2017年「WRX STI GRCマシン」を本庄サーキットでテスト


富士重工業株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:吉永泰之)のモータースポーツ統括会社であるスバルテクニカインターナショナル株式会社(所在地:東京都三鷹市、代表:平川良夫、略称:STI)では、アメリカで人気のあるグローバルラリークロス選手権シリーズに「SUBARU WRX STI GRC Supercar」で参戦している。

そして今シーズンからは、SUBARUラリーチームUSA(SRTUSA)への技術支援をさらに本格化させていく。そのため先の1月25日に埼玉県にある本庄サーキットで、国内初となるGRCマシンの走行テストを実施。新井敏弘選手が同マシンのステアリングを握った。

今回のテストは、昨シーズン、クリス・アトキンソン(オーストラリア)がドライブしたマシンそのものを持ち込み、今シーズンの目標であるエンジン出力の改善、耐久信頼性の向上。

そしてローンチコントロールの改善、コーナリングスピードを上げるためのジオメトリーの最適化と剛性アップ、慣性モーメントの低減などを図り、「速さ」と共にドライバーが意のままに操れることを達成するための基礎データ取得を目的としていた。

GRCマシンに乗り込んだ新井選手は、「ひとことで言えばWRカーに近いフィーリングです。具体的に言うと、ハンドルを切った方向にクルマがどんどん曲がるイメージで、ある意味乗りやすいです。

一般ドライバーが乗る量産車では、ここまで曲がりやすいクルマだとスピンしてしまうのでマイルドにセッティングしていますよね。

それと大きなところではサスペンションジオメトリーです。量産車ではブレーキング時のノーズダイブを抑えるアンチノーズダイブジオメトリーと加速時にリヤの沈み込みを抑えるアンチスクワットジオメトリーの採用が今や常識ですが、WRカーやGRCマシンでは、特にフロントのアンチノーズダイブジオメトリーは採用していません。

ブレーキング時にフロントをパタンと縮めてフロントタイヤの荷重を大きくするんです。その方がグラベルでもフロントタイヤがロックしにくくなります。

リヤについてはマシンを設計したエンジニアの考え方で異なるようです」と語る。

さらに今回テストした昨シーズンのマシンについて新井選手は、「本庄サーキットのようなコースでも現地のドライバーはサイドブレーキを使って強引に曲げて行くんですよ。

ですから現状では、どちらかというとアンダーステア傾向にあります。この辺をもっと普通にブレーキングからアクセルを開けて曲がって行けるようにしたいですね」とその感触をコメントした。

一方、テストを取りまとめるSTIの野村章プロジェクトシニアマネージャーは、「我々が考えていた改善点は、今回、新井選手がドライブした印象と同じだったので間違っていなかったと確信しました。

現地のチームは実戦部隊なので、我々のような自動車メーカーが持っている解析システムや実験設備はありません。そこで、メーカーならではのメリットを生かし、例えば最適なサスペンションジオメトリーを導き出し、それをチームにバトンタッチすることが目標です。

チームでは、我々が提供したモノをさらにコースに合わせてチューニングするというわけです」と野村は今回のプロジェクトの狙いを語ります。ちなみにGRCのレギュレーションではサスペンションジオメトリーの大幅な変更が許されています。

また複数台のマシンが一斉にスタンディングスタートするGRCのレースでは、スタート時のダッシュ力が勝敗を決める要因にもなっています。

そこで、ローンチコントロールが必要なのですが、レギュレーション上、車輪速センサー等を使ったトラクションコントロールのような電子制御システムが使えません。

理想的なスタートダッシュを決めるためには、最適なトルク特性を出す必要があります。基本的にはエンジン回転数とブースト圧で制御するのですが、トルクが大き過ぎるとホイールスピンが多くなります。

逆にトルクが小さいとストールしてしまいます。ある意味、アナログ的なローンチコントロールなので、実際のコースの路面状況、天候、気温によって異なるタイヤのグリップ力応じて、いくつかのパターンで制御ソフトを用意する必要があるんです。

チームはその日の状況に合わせてソフトをチョイスするのです。電子制御が使えないと言うのは、ある意味アメリカンな感じですが、参加する側にとっては優劣が付き易いメリットがあると思います。今日は、いくつかのパターンで現状のデータを取得しました。

 

なお現在、STIではGRCマシン用のエンジンを開発しています。今回テストしたマシンは580psですが、新たなエンジンはさらなる性能向上を目標としています。

現在製作中のエンジンは、パワーはもちろんですが扱いやすさも狙っています。レースの特性上、レスポンスにも優れている必要があります。また慣性モーメントの低減のため、エンジン自体の軽量化も進めています。

シャシーの方でもさらにマスの集中化を進めて行く予定です」と今後の予定を明かしていた。

最後に新井選手は、「いずれにしてもトラクションコントロールなどの電子制御が使えない分、ドライバーの技量が要求されます。

スタート時には半クラッチを使いながら微妙なアクセルコントロールも必要です。またタイヤもワンメイクでコントロールされていて、サイズは235/45R17と、これだけパワフルなマシンにしてはプアです。

スタート時はもちろん、コーナリング、ブレーキングとドライバーの技量によるところが大きいので面白いですよ。このマシンはまだまだ速くなります。是非、期待していてください」と力強く語った。