ニュル24時間完走は「もっといいクルマ作り」のスタートライン
TOYOTA GAZOO Racing(TGR)は、TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(以下、TGRR)として21日(土)から22日(日)にかけてドイツ・ニュルブルクリンクで開催された「ADAC RAVENOL 24h Nürburgring」にGR YARISとGR Supra GT4 Evo2で参戦した。
その結果、GR YARISは総合52位(SP2Tクラス1位)、GR Supra GT4 Evo2は総合29位(SP8Tクラス4位)で完走した。
6年ぶりの復帰となる2025年のニュル24時間。2007年からの「もっといいクルマづくり」への志を持ち込み、TGRとルーキーレーシング(RR)が融合したTGRRでの新たな体制で参戦した。
2023年秋からクルマづくりや国内外でのテスト、そして4月のNLS参戦などを含めて入念に準備を進めニュルにやってきた。
予選1日目、ナイトセッションで早速ニュルの洗礼を受けることに。382号車と110号車はジャンプした際の着地の衝撃によりトラブルが発生。
どちらも致命的なモノではなかったが、ニュルでなければ出てこないトラブルだった。エンジニアの一人は「GRの辞書に『順調』という言葉は無い」と気を引き締めた。
決勝日、朝の全体朝礼でモリゾウ選手はメンバーに、「2025年、我々のニュルへの挑戦が始まります。今朝、私の部屋に新聞が届きました。
そこにはGRヤリスの写真ともに、『トヨタはニュルに帰ってきた』の見出し、とても嬉しかったです。
今回、20年前の孤独なモリゾウではなく、仲間がたくさんいるモリゾウを参加させてくれたこと、感謝したいと思います。そのためにも、ぜひ完走してみんなとの成果物を取りに行きたいと思います、よろしくお願いします」と語った。
レースは16時にスタート、序盤はどのクラスも混戦模様だったが109/110号車はアクシデントに巻き込まれることなく走行。
赤旗中断を挟んで開始から4時間が経過する頃、モリゾウ選手にドライバーチェンジ、石浦選手が先導する382号車とともに走行を行う。
当初は3周の予定だったが、走り込むにつれて「もう1周」、「もう1周」と気が付けば6周を走行。石浦選手は「周回を重ねるにつれてどんどんとペースが上がり、逆に煽られるくらいでした」と苦笑いするシーンもあった。
例年、ニュルは時々刻々と変わる天候(特に雨と霧)に悩まされるが、今年は晴天で全体の走行ペースも上がり気味。それが故に日が暮れ始めた22時以降にコースの至る所でクラッシュが続出した。
しかし、2台はそこに巻き込まることなく走行を続ける。これまでの挑戦を振り返ると、この時間帯には何らかのトラブルが発生しピットはてんてこ舞いになっている事が多かったが、今年は何も起きず。そんな状況から、あるエンジニアは「何も起きないことが逆に怖い」とポツリ。
漆黒の夜から朝日が登り始めても、その状況は変わらず。そして、10時にモリゾウ選手は2回目の走行を行う。予定は5周だが、なんと4周目に無線の不具合で緊急ピットイン。
メカニックが即座に対応してコースへと復帰。実はここでの“数分”が、109号車が唯一走行を止めた時間となった。その後、モリゾウ選手は周回を増やし9周を走行。
1回目のスティントと合わせて計15周は、歴代ニュル参戦で最多周回である。モリゾウ選手のインカー映像を見ていた、2007年からニュルの活動を続けている伝道師の平田は「クルマの走らせ方や速いクルマの抜かれ方など、そのドライビングに成瀬さんを思い出し、感動した」と語った。
その後も変わらず走行を続ける。あまりの順調さに平田はメディアからコメントを求められるが、「これまで何度もギリギリでトラブルが襲った経験があるので、ゴールラインを超えるまで答えられない」と気を引き締める。
その言葉の通り、残り3時間、110号車はトラブルと2回のパンクに見舞われてしまった。ニュルは最後の最後まで気が抜けないのだ。
そして16時、スタートから24時間後にチェッカーを迎えた。今年のニュル24時間は134台中完走したのは88台と、近年まれにみる荒れたレースだったが、109号車は総合52位(SP2Tクラス1位)、110号車は総合29位(SPクラス4位)で24時間をしっかりと走り切った。
6年ぶりの復帰戦で24時間を走り切ったTGRRだが、ここがゴールではなく「もっといいクルマ作り」のスタートラインであることは2007年から全く変わっていないという。※結果は6月22日(日)現地時間16時時点のもの。
【レース後のコメント】
関谷利之:TGRR GM
次に向けた課題はいくつかありましたが、走る・曲がる・止まるのトラブルはほぼゼロ。つまり、S耐で鍛えたGRヤリスの凄さがニュルで証明され、素直に凄いと感じました。
逆を言うと、クルマにチームが負けてしまったかなと思う所もありますね。かつてのニュルの活動は一発勝負だったので色々壊れましたが、今回はそういう事もありませんでした。
ただ、このプロジェクトは2023年の秋からスタート、その過程は「壊れては直し」の繰り返しだったので、やはりニュルは甘くないし一筋縄ではいかないですね。
久富圭:GR YARIS チーフエンジニア
開発を含めるとかなり長い時間でしたが、とにかく妥協しないでやり切ろうと決めました。レースでは半分は今までやってきた背景があるので自信を持って進められましたが、時間が進むにつれて不安は重なり、最後の方は「早く終わって欲しい」と思うくらい辛かったです。
マシンは量産スペックにこだわりましたが、しっかり走り切った事で我々のクルマづくりは間違っていなかったと自負しています。ただ、この活動で得た知見は次の市販車に織り込む事が私の課題であり使命なので、まだまだ終われません。
モリゾウ
ドライバーとしては自分が目標としていた15周を周回することができました。クラッシュや道が荒れている状況でも安心して走る事ができましたが、かつて成瀬さんのテールランプを見て練習してきた事が、すごく役立ちました。
走行中に成瀬さんと会話をしました。私が「成瀬さん、私運転上手くなりました?」と聞くと、「これ以上に運転上手くなるなと言っただろお前、そうしないといいクルマは解らないよ」と言われました。でも私は、「運転が上手くならないと、いいクルマの味見ができませんよ」と言い返しました。
振り返ると、成瀬さんと一緒に2007年にGRを立ち上げた時は、誰からも応援してもらえなかったチームでしたが、今回はGRとRR……エンジニア、メカニック、ドライバーが融合したワンチームとして参戦できた事、これは本当に嬉しく思っています。
これが20年前にはやりたくてもできなかった事でしたので、ステアリングを握りながら、“孤独”だった「もっといいクルマづくり」にたくさんの“仲間”ができたことが実感できました。
今回の完走は参加してくれたみんなで得たモノです。本当にありがとうございました、そしてご苦労さまでした。
<予選結果>
総合_クラス_チーム_車名_ゼッケン_予選タイム
89 1 TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing GR YARIS 109 9分38秒587
46 3 GR Supra GT4 Evo2 110 8分51秒432
<決勝結果>
総合 クラス チーム 車名 ゼッケン 周回数
52 1 TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing GR YARIS 109 113
29 4 GR Supra GT4 Evo2 110 126
<参戦体制>
TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing
ゼッケン_クラス_車名:109 SP2T GR YARIS
ドライバー:
モリゾウ
豊田大輔
石浦宏明
大嶋和也
チーフメカニック:南剛史※1
チーフエンジニア:久富圭※1
ゼッケン_クラス_車名:110 SP8T GR Supra GT4 Evo2
ドライバー:
片岡龍也
佐々木雅弘
松井孝允
蒲生尚弥
チーフメカニック&エンジニア:土居隆二※2
※1)トヨタ自動車株式会社社員
※2)110号車運営代表
<ニュルブルクリンク24時間生中継 アーカイブリンク>
6/20(金)12時~(直前スペシャル(予選))
ニュル24時間生中継 超直前SP!6年ぶりにニュルの舞台へ|トヨタイムズスポーツ
6/21(土)15:00~24:00(決勝スタートから夜間走行)
ニュル24時間生中継 モリゾウが原点の地、ニュルに帰ってくる|トヨタイムズスポーツ
6/22(日)24:00〜9:00(夜間走行から夜明け)
ニュル24時間生中継 レースの行方は|トヨタイムズスポーツ
6月22日(日)9:00〜ゴール(朝の走行からゴール)
ニュル24時間生中継 TG-RRゴールの瞬間|トヨタイムズスポーツ – YouTube