トヨタ、インド市場開拓で光明。スズキとHV車などの相互供給で合意


トヨタ自動車株式会社(本社 : 愛知県豊田市 代表取締役社長:豊田章男)とスズキ株式会社(本社:静岡県浜松市、代表取締役社長:鈴木俊宏)は、先の2017年2月6日の業務提携に向けた覚書締結以降、「環境技術」「安全技術」「情報技術」「商品・ユニット補完」等に関して、具体的な協業の実現に向けた検討を進めてきた。

その一環として2017年11月に、インド市場へ2020年頃に電気自動車を投入するための協力関係を構築していくことで合意。さらに今回は、両社の商品ラインアップを強化しつつ、インド市場に於ける販売競争の活性化に向け、ハイブリッド車などの相互供給を行うことで基本合意に至った。

ちなみに今回、基本合意に達した商品に限っては、両社共にできる限り部品の現地調達を進め、インド政府が推進する「Make in India」を実現していくと共に、燃費の優れた商品の普及によってインド政府が望む環境負荷低減や、エネルギーセキュリティの充実に貢献していく。

具体的な車種展開では、スズキからトヨタへは「バレーノ」「ビターラ・ブレッツァ」を供給。トヨタからスズキへは「カローラ」を供給する内容で進めている。具体的な供給開始時期や台数規模、車両スペック、供給価格等の詳細については、今後両社で検討を進めていく予定だ。

双方がそれぞれに供給を受けるこれらの車種は、トヨタ、スズキ両社の現地子会社が、個々の販売網を通じて販売する。販売チャネルについては現段階に於いては発表されていない。

結果、両社が切磋琢磨して市場を活性化することによって、インドの消費者層へ届けていく商品・サービス品質をより一層向上させていく構えだとしている。

トヨタは2010年にインドの市場拡大を模索。新興国戦略車として満身の「エティオス」を開発・投入したものの、スズキの牙城を突き崩すことが出来ず、同国でのシェアは2017年時点でわずか3.5%と低迷している。

そこで今後両社は、相互に公正かつ自由な競争が行われることを前提として、「持続可能なモビリティ社会」の実現に向け、さらなる協業の検討を継続していくと云う。

なお製品供給先のインド政府では、来る2030年までに販売車両の30%をEV化する方針を打ち出すなど、その施策の動向は今後の流れでまだまだ変動があるだろうと見られているものの、同国に於ける環境規制の方向性について、厳しさを増していくのは間違いないところだ。

このためスズキは、環境車で先行するトヨタを戦略上で利活用していく方針。

一方でこの相互の現地チャネルによる車両販売は、現地でのススキブランドの信頼感と人気を背景に、むしろススキブランドから発売されるカローラを介してトヨタブランドの市場浸透を助けていくことになり、この結果、トヨタ側のシェア拡大に少なからず貢献すると考えられる。

ただもとよりインドは、経済規模に於いてまだまだ伸び盛りゆえに、同国でシェア4割と確固たる地位を築いたスズキとしては、トヨタの経済力・技術力を利用していく方が、自社にとって未来に向けて事業拡大の可能性が高いと見ているのだろう。

またトヨタとしても、日本陣営がインド市場で安定的な立ち位置を確保していくという目的を踏まえると、他国ブランドのインド国内マーケット参入の可能性を前提に、むしろマーケットリーダーのスズキと共に同国市場を攻めていく方が戦略的効果が高いと見ていると考えられる。

今後、インドの自動車市場は、既に成熟した先進諸国の事情とは異なり、先のマーケットシェア云々以前に、伸張していく自動運転車やコネクテッドカーの台頭で、これまでとは全く異なるモビリティ社会が出現する可能性がある。

従ってトヨタとしては、当姉妹誌である「NEXT MOBILITY」最新号のインタビューでスズキの鈴木俊宏社長が答えた様に「今後もパーソナルカーに注力する」ということであれば、変革する新時代のモビリティ社会に向けて、既存の市自動車マーケットとは異なる領域で、新たな活路を切り拓いていく可能性は大きいだろう。

加えてそもそも相互に、同じ地域で織機事業から始まったという事業背景。双方の経営トップに立ち続けている創業家の信頼関係も強いことから、両社の協業は、この東アジアの大国であるインドを軸に新たなビジネス領域を切り拓いてく可能性も秘めている。(坂上 賢治)