経済産業省、水素スタンドの普及を見据え圧力容器構造に関するJISを改正


経済産業省は、水素スタンドのさらなる設置・普及を見据え、水素スタンドで使用可能な高強度材料の使用条件を拡大するべく、日本工業規格JIS B 8265の一部を改正した。

1.制定の背景・目的
先進各国では、エネルギー安定供給確保及び地球温暖化防止の観点から精力的に燃料電池自動車(FCV)の開発・普及を進めている(※1)。

現在、FCV用の水素スタンドに用いられる材料は、高圧水素中においては金属材料に脆化を生じ、特に強度の高い場合に顕著となることから、使用する環境(圧力、温度等)で安全が確認され、高圧ガス保安法の技術基準を満たしたものを例として示しており、JIS等の規格を活用している(※2)。

SUH660(※3)は、有望な高強度金属材料のひとつとして、2015年11月に高圧ガス保安法一般高圧ガス保安則例示基準に追加されたが、設計根拠となる許容応力はJIS G4311(耐熱鋼棒及び線材)、JIS G4312(耐熱鋼板及び鋼帯)には、常温の場合のものしか無いため、その使用温度は50℃までに限定されている。

水素スタンドでの使用温度は、より高くなる場合があることから、使用可能な温度範囲を整合させることは極めて重要である。

また、最近の材料評価の結果(※4)、SUH660について120℃までの十分な耐水素性を有することも確認されている。

このため、圧力容器の許容引張応力の規範となるJIS B8265(圧力容器の構造 – 一般事項)の一部を改正した。

amend-the-jis-on-pressure-vessel-structure-anticipation-of-the-ministry-of-economy-trade-and-industry-the-widespread-use-of-hydrogen-stand20160629-1

(※1) 「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」によると、FCVは2020年までに4万台程度、2025年までに20万台、2030年までに80万台程度を目標とし、水素ステーション(水素スタンド)は2020年度までに160箇所程度、2025年度までに320箇所程度を目標としている(現在、80箇所程度)。

(※2) 「SUS316(Ni当量品)の使用範囲拡大」、「SUH660の追加」、「C3604・C3771の追加」等、試験データの得られたものを順次例示して追加している。

(※3) 水素ステーション用鋼材は、50℃以上となる環境下での使用を求められる場合があるため、高温、高圧で使用可能な鋼材が求められている。SUH660は、他の材料(SUS316(Ni当量品)、SUS汎用鋼、銅合金系)と比較して、2倍程度以上高強度であることから、高温下での使用が可能になれば製品を薄肉化、小型化できるメリットがある。
(※4) 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業「水素利用技術研究開発事業」(平成25~29年度)

2.規格改正の主なポイント
高圧ガス保安法における例示基準について、SUH660の使用温度範囲を拡大し、水素スタンドでの使用を促進していくためには、同法の特定設備検査則例示基準及び一般高圧ガス保安規則例示基準の改正が必要である(※5)。

その第一歩として、高温でのSUH660の利用を一般化するために、JIS B8265の附属書B(材料の許容引張応力)にSUH660を追加し、温度範囲を350℃まで規定した。

(※5) 特定設備検査則例示基準の別添1別表第1にSUH660の許容引張応力を掲載する改正と、一般高圧ガス保安規則例示基準の9節にSUH660の使用温度範囲を定める改正が必要。

3.改正の期待効果
今回のJISの改正により、SUH660に係る例示基準が見直され、従来50℃までに制限されていた使用温度範囲を120℃まで拡大することが期待される。

また、同省ではこれにより、当該ステンレス鋼を使用する高圧水素機器類の設計の自由度が拡大し、水素スタンド建設の促進・低廉化が期待されるとしている。