先進運転支援システム(ADAS)用キーデバイス/コンポーネント世界市場に関する調査を実施
市場調査・シンクタンクの株式会社矢野経済研究所(本社:東京都中野区本町、代表取締役社長:水越 孝、以下、矢野経済研究所)では、次の調査要綱にて先進運転支援システム(ADAS)の世界市場について調査を実施した。
1.調査期間:2016年3月~6月
2.調査対象:カーエレクトロニクスメーカ、半導体メーカ、自動車メーカ
3.調査方法:当社専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用
ADAS用キーデバイス/コンポーネントとは
この先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driving Assistant System、以下ADAS)は、車両のフロントやサイド、リアに装着されたセンサデバイスにより車両の周辺状況を検知し、事故を未然に防ぐシステムである。
主な運転支援機能は、LKS(車線維持支援)やACC(前方車両追従)、AEB(緊急自動ブレーキ)、TSR(標識認識)などがある。
同調査におけるADAS用キーデバイス/コンポーネントとは、車両のフロントおよびサイド、リアに搭載された各種センサユニット(76/77GHzミリ波レーダ、24/25GHz準ミリ波レーダ、(ADAS用)カメラ、赤外線レーザ、ナイトビジョン、超音波センサ)などを指す。
いずれも、乗用車および車両重量3.5t以下の商用車に搭載されるキーデバイス/コンポーネントを対象とする。
調査結果サマリー
2015年におけるADAS用キーデバイス/コンポーネントの世界市場は4,327億円
2015年のADAS用キーデバイス/コンポーネント世界市場規模(自動車部品メーカTier1出荷金額ベース)は前年比39.5%増となる4,327億7,900万円となった。
2015年から本格的な拡大基調に入っており、ADAS装着車が日米欧で急増している。
ADAS用キーデバイス/コンポーネント世界市場規模の2014年から2020年までの年平均成長率(CAGR)は29.3%で推移し、2020年には1兆4,475億円に成長と予測
欧州と日本における新車アセスメントプログラム(New Car Assessment Programme:NCAP)において、歩行者AEBの評価試験が2016年から始まり、米国でもAEBの標準化についての発表が米国運輸省(USDOT)からされている。
このため、2016年~2018年にかけてAEBの標準搭載が日米欧で進み、2020年の市場規模は1兆4,475億5,500万円に達すると予測する。
ADAS用カメラは年平均43.6%で成長し、2020年の世界市場規模は6,800億円に伸張
歩行者AEBに対応するためにフロントに搭載されるADAS用カメラが日米欧で必須となる。また、自動運転機能を実現するためにADAS用カメラの高性能化も進み、車両1台あたりの搭載個数も増える。
このため、2014年~2020年における年平均成長率(CAGR)43.6%で市場は拡大し、2020年のADAS用カメラの世界市場規模は6,800億3,000万円に伸張すると予測する。
1. 市場概況と2020 年の市場規模予測
2015 年におけるADAS(ADAS:Advanced Driving Assistant System、以下ADAS)用キーデバイス/コンポーネントの世界市場規模は4,327 億7,900 万円であった。
2014 年の市場規模から39.5%増となり、日米欧を中心にADAS 搭載車が急増している。
2015 年は欧州よりも日米の増加率が高く、両市場ともラグジュアリークラス(高級車)以外でもADAS 搭載車両が増えている。
日本市場は、JNCAP(Japan New Car Assessment Programme)においてAEB(緊急自動ブレーキ、以下AEB)評価試験が2014 年から始まっており、2016 年からは歩行者AEB 評価試験も実施される予定である。
これに対応するためにトヨタ自動車は、Toyota Safety Sense C, P、ホンダはHonda SENSING などの新しい安全システムを2014 年末に市場投入してAEB 搭載車種を増やしている。
このため、日本市場におけるADAS 装着率は2015 年に40%を超え、日米欧の中で最も装着率の高い市場となっている。
米国市場については、米国運輸省(USDOT)、米国運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)、米国道路安全保険協会(IIHS)が2022 年までに主要自動車メーカ20 社が製造する全新規販売車両においてAEB が標準装備になると発表している。
このため、各自動車メーカでは前倒ししてAEB の搭載を進める可能性が高く、2020 年までに9 割以上の新規販売車両にADAS が標準搭載されると推測する。
欧州については、ミドルクラス以下にもADAS の標準化が進んでおり、2015 年は日本と同様にADAS装着率は40%を超えている。
今後はコンパクトクラスへの標準化が2017 年~2019 年にかけて進むと予測する。
このような状況から、2016 年以降はADAS 用センサの需要拡大が急速に進み、2020 年におけるADAS 用キーデバイス/コンポーネントの世界市場規模は1 兆4,475 億5,500 万円、2014 年~2020 年における年平均成長率(以下CAGR)は29.3%になると予測する。
2.主なセンサ別2020 年の市場展望
2-1. ADAS 用カメラ
ADAS 用センサの中で最も市場規模が大きいのがカメラ※である。
2015 年の市場規模は1,511 億8,500 万円に達し、ミリ波レーダの市場規模(1,113 億6,700 万円)を上回っている。
歩行者AEB の採用が日米欧で進んでおり、車両と歩行者、自転車等の認識・区別が可能なカメラはADAS では必須のセンサとなっている。
さらに、カメラの高機能化(高画素化、画像処理の高速化)が進展しており、人工知能(ディープラーニング)の採用も2016 年から一部メーカで始まっている。
カメラを使った運転支援機能の種類が広がっており、自動運転向けに複数のカメラの搭載も検討されている。
このため、2014 年~2020年までのCAGR はADAS 用センサの中で最も高い43.6%であり、2020 年には6,800 億3,000 万円に市場は拡大すると予測する。
※本調査におけるカメラとは、ADAS 用カメラを対象とし、センサ機能を使用して障害物を検知し、ドライバーを介さずに自動的に自動車のブレーキをかけるなどの走行を支援するシステムをさす。パーキングアシスト等のビューカメラを除く。
2-2. 76/77GHz ミリ波レーダ
ADAS 用カメラの次に市場規模の大きい76/77GHz ミリ波レーダの2014 年~2020 年までのCAGR は27.8%、2020 年の市場規模は3,884 億1,600 万円になると予測する。
2019 年以降にCMOS プロセスを適用したミリ波レーダの製品投入が進み、検知距離100m 以下の周辺監視向けSRR(Short RangeRader)に使われる。
このため、車両1 台あたりに搭載されるミリ波レーダの数は5~6 個に増加し、24/25GHz 準ミリ波レーダから76/77GHz ミリ波レーダへの置き換えも2020 年以降は進む。
これに伴い、需要拡大によるコストダウンも進むことから、金額ベースでの年平均成長率はADAS 用カメラよりも低いと推測する。
2-3. 24/25GHz 準ミリ波レーダ
24/25GHz 準ミリ波レーダの検知距離は70~80m、検知角度180 度のリア/サイドの周辺監視向けSRRとして採用されている。
BSD(死角検知)やLCA(車線変更補助)、RCTA(後方車両衝突・接近警報)向けにリアバンパーに2 個装着されるケースが多く、高級車では一台あたり5 個の準ミリ波レーダを搭載する。
低コストであるため一定の需要が期待出来ることから、2014 年~2020 年までのCAGR は26.2%、2020 年の市場規模は2,553 億6,000 万円と予測する。
24/25GHz 準ミリ波レーダを量産出荷しているメーカは高度な運転支援機能に対応するために、より高分解能な76/77GHz ミリ波レーダによるSRR の製品開発を進めている。
このため、CMOS プロセスによるミリ波レーダのコストダウンが進む2020 年以降については、SRR の24/25GHz から76/77GHz への置き換えが進む可能性が高く、24/25GHz 準ミリ波レーダの成長は鈍化すると予測する。
2-4. 超音波センサ
検知距離が3~4mの超音波センサについては、近距離における障害物を警報するクリアランスソナーが、駐車支援システムなどで使われている。
車両1 台当たりの搭載個数は年々増加しており、高級車では12 個の超音波センサが使われている。
超音波センサを採用した駐車支援システムは欧州市場がこれまで中心であったが、低コストであるために日本市場でも採用が拡大する見込みである。
また、駐車支援システムの高機能化、自動駐車の実用化と合わせて超音波センサの車両1 台あたりの平均搭載個数は9~10 個まで上昇する。
このため、超音波センサの2014 年~2020 年までのCAGRは19.0%になり、2020年の市場規模は858 億2,600 万円と予測する。