FIAフォーミュラ・ワン世界選手権、第9戦オーストリアGP(開催地:オーストリア・スピルバーグ、レッドブル・リンク<コース全長:4.326km・決勝71周>、開催期間:7月1~3日)の決勝レースが、現地時間7月3日(日曜日)の14時から実施された。
ここレッドブル・リンクは、標高700mの山頂に位置し、当地オーストリアの起伏を活かしたコースだ。コースの設計基準そのものは新しく、各コーナーの避難エリアも広く安全性も高い。
しかし今年の同選手権シリーズ中でも酸素が薄く、コーナー数が最も少なく、かつ毎ラップ毎の周回タイムが70秒程と、ドライバー並びにパワーユニットにとって、屈指の過酷なサーキットのひとつに数えられる。
なお今回の出走各車にとって、同コース攻略の課題は、フリープラクティスから決勝を通して縁石を通過する際の処理にあった。
特にニコ・ロズベルグ(メルセデス)、ダニール・クビアト(トロ・ロッソ)、セルジオ・ペレス(フォース・インディア)らは、コース縁石がシャシー下部にヒットする事によるサスペンショントラブルに苦しんだ。
そうしたなか、全長4.326kmのトラック上を71周することで勝敗が決する今GP。決勝レースは、当初の想定通りの激しい戦いとなり、最終ラップまで続いた接戦を勝ち抜いたルイス・ハミルトン(メルセデス)がトップでチェッカーを潜っている。
さて決勝レースのスタートでは、先によるトラブルを被った予選結果2番手のニコ・ロズベルグ(メルセデス)と、予選4番手を獲得したセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が、共にギアボックス交換で5グリッド降格の憂き目を被る。
これによって、PPのルイス・ハミルトン(メルセデス)のグリッド位置は変わらないが、その横の、本来はロズベルグが位置する場所に予選3番手のニコ・ヒュルケンベルグ(フォース・インディア)が陣取る。
その後方2列目は、予選5番手ながら実質3番手グリッドを確保したジェンソン・バトン(マクラーレン)と、6番手のキミ・ライコネン(フェラーリ)。
その後方3列目にダニエル・リカルド(レッドブル)と、5グリッド降格処分を受けたニコ・ロズベルグ(メルセデス)。
さらにその後方4列目にバルテリ・ボッタス(ウィリアムズ)と、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、さらにその後方に5グリッド降格のセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が並ぶ。
本来はそのベッテルの隣には、フェリペ・マッサ(ウィリアムズ)が並ぶ筈だったのだが、決勝前にフロントウイングのダメージを発見して交換したことによりピットレーンスタートに。
加えて、前日土曜日のQ1でクラッシュしたダニール・クビアト(トロ・ロッソ)は、シャシーとギアボックスを載せ替えたことで、やはりピットレーンスタートとなってしまった。
スタート開始直前の気温は15度・湿度67%の曇り空。路面温26度のトラックコンディションだ。
スタート時の装着タイヤは、レッドブル陣営とフェラーリ陣営。そしてフェリペ・マッサ(ウィリアムズ)並びにQ2以下で敗退した車両がスーパーソフト。その他の上位陣営はウルトラソフトを装着している。
シグナルが変わって、スタート時に首位でターン1に到達したのはPPのルイス・ハミルトン(メルセデス)。
ジェンソン・バトン(マクラーレン)と、キミ・ライコネン(フェラーリ)は、互いにニコ・ヒュルケンベルグ(レッドブル)を出し抜き2・3番手でオープニングラップを消化していく。
この後、ピットレーンスタートとなったダニール・クビアト(トロ・ロッソ)は、早々に戦列を離れ、このレース初のリタイヤを喫している。
その間、一時2番手に上がることに成功したジェンソン・バトン(マクラーレン)なのだが、6周目にキミ・ライコネン(フェラーリ)に抜かれて以降は徐々に後退。10周目にタイヤ交換のためのピットインを行った。
この後、各車が続々とピットストップを行うなか、ルイス・ハミルトン(メルセデス)は混乱を避けて、他車に遅れてのタイヤ交換を実施。
しかしなんと肝心のタイヤ交換作業に手間取ってしまい、後方から追い上げてきていたニコ・ロズベルグ(メルセデス)に抜かれてしまう。
一方、1ストップ戦略を選択したセバスチャン・ベッテルは、この作戦そのものが裏目に出て、27周目に右リアタイヤがバーストしてクラッシュ。これによりイエローフラッグが出てフルコースコーションとなる。
この規制は4周後の31周目に解除され、ニコ・ロズベルグ(メルセデス)が首位を保ったままスパートを掛ける。
これをルイス・ハミルトン(メルセデス)が追従し、中盤以降のオーストリアGPの勝利の行方は、この2台によるトップ争いに焦点が移る。
レース終盤、2台の両車は、周回遅れをかわしながら首位争いを続行。そして最終ラップのターン2の入り口で、ルイス・ハミルトンが果敢に並び掛ける。
これに対してニコ・ロズベルグは、ターン2の後半部でルイス・ハミルトンをコース外に押し出してしまう。
この際、ニコ・ロズベルグ車のフロントウイングがターン2でヒットして大破。ニコ・ロズベルグは、そのままフロントウイングを破損したままで時折、火花を上げながらもゴールを目指す体制に持ち込んだ。
対してコース外へ押し出されたルイス・ハミルトンは、なんとか踏ん張り続けて首位を保ったままゴールラインを潜る。
これに後続のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とキミ・ライコネン(フェラーリ)が続き、それぞれ2位・3位を獲得。
4位はフロントウイングを破損したまま走り続け、レース後の審議対象となったニコ.ロズベルグ(メルセデス)。
5位ダニエル・リカルド(レッドブル)、6位ジェンソン・バトン(マクラーレン)、7位ロマン・グロージャン(ハース)、8位カルロス・サインツ(トロ・ロッソ)、9位バルテリ・ボッタス(ウィリアムズ)、10位パスカル・ウェーレイン(マノー)と続いた。
優勝・ルイス・ハミルトン
「今日の僕は、比較的優位なポジションを守れていたから、できる限り多くのポイント獲得を目指していた。そしてレースの最後の最後に優勝を掛けたチャンスが巡ってきた。
このターン1で、ニコが外側に膨らんだから、僕は彼を追い続けながらも、できる限りの相手のスペースを残して前に進んだ。
それでもニコと接触したから本当に驚いた。次のコーナーの前で彼のマシンから火花が出ていてスピードが落ちたから、彼を抜いた。
これはレースだ。チームは僕たちにレースをさせてくれるし、僕たちは、2人共レースで勝つことを目標にしている。今日のことは単に不運なインシデントだった」
2位・マックス・フェルスタッペン
「今年2度目の表彰台を獲得できて嬉しい。今日は良いレースだったと思う。
マシンのパフォーマンスもタイヤも良かった。スタートで他車を抜いて、その後のバトルも愉しんだ。
そしてレース後半は、自分のレースを走った。キミ(ライコネン)は速かったけど、最後まで彼を抑えることができた。
レース終盤に3位は獲得は予想していたけど、2位になれた。ファイナルラップでもう1つ順位を上げられた。
今日は間違いなくセーフティカーが助けになって、ピットストップをうまく活用できた。ただ終盤に掛けてはミスを犯すプレッシャーに対処しなければならなかった。
何度かトラフィックに引っかかってタイヤが冷え、少しトリッキーになったが、僕たちは今シーズン、一生懸命仕事をし、表彰台をつかんでいるから、次のシルバーストーンを気持ちよく迎えられる」
3位・キミ・ライコネン
「簡単な1日ではなかったが、ベストは尽くした。3位獲得は嬉しいけれど、レース序盤の状態を考えると、チームとしてもっといい位置に付けていた可能性もある。
実際、最初はメルセデスに少しずつ追い付けるほどのスピードがあった。しかしピットストップの後はリカバーが難しくなった。
特にリカルドをパスするのに貴重な時間をロスした。何度もすぐ近くまでいったのに、ターン2を抜けるところでトラクションを失う。
その後、彼をパスしてからはいいスピードを保てたし、ハンドリングにも満足できる仕上がりだった。だから最終ラップでマックス(フェルスタッペン/トロ・ロッソ)を抜くことは可能だと思っていた程だ。
でも、僕らはチームの2台で表彰台を目指しているから、この結果は充分なものでない。シルバーストーンでは、より良いリザルトを手に入れたい」
フェルナンド・アロンソ
MP4-31-02
スタート 14番手
レース結果 DNF ※ESバッテリーパックのシステム不具合のためリタイア
ファステストラップ 1分11.020秒 44周目(トップとの差 +2.609秒、20番手)
ピットストップ 2回:8周目(ピットストップ時間 2.80秒)および26周目(ピットストップ時間 3.86秒)[プライム→バックアップ→バックアップ]
「今日は私にとって厳しいレースとなり、ツキが無かった。3周目か4周目あたりからエンジンがうまく機能せず、バッテリーの不具合でパワーも不足していた。このためレース全体を通してマシンをリタイアさせるかどうかの瀬戸際に立たされた。
しかし我々はトップ10周辺のポジションで走行できており、ポイントを獲得するチャンスがあったので、完走を目指して走り続けた。しかしそれは不可能だった。
一方、ポジティブな点もあった。昨日の予選を通して、変わり易いやコンディションに於いてマシンに競争力が上がった。また、今日はジェンソンがチームにとってうれしいポイントを獲得してくれた」
ジェンソン・バトン
MP4-31-03
スタート 3番手
レース結果 6位
ファステストラップ 1分10.001秒 70周目(トップとの差 +1.590秒、9番手)
ピットストップ 2回:9周目(ピットストップ時間 3.67秒)および26周目(ピットストップ時間 3.79秒)[オプション→バックアップ→バックアップ]
「今日のレースが難しい展開になることは分かっていた。しかし上位のポジションからスタートできたことが役だった。前方や周囲に他のマシンが限られる環境でレースを消化でき、自分の走りがし易かった。
一方で、このサーキットにはDRS(Drag Reduction System)を使用できるゾーンが2カ所あったのだが、ライバルチームのマシンを後方に留めるには我々のパワーユニットは役不足だった。
我々のマシンの走行ペースはそこそこ良かったのだが、ほかのチームのマシンなら、オーバーテイクできないと思われる場所でも追い抜かれた。それでも、我々はWilliamsのマシンに勝てたのは嬉しい収穫だった。
また、レース中の戦略に於いて、チームは素晴らしい仕事をしたと思う。
今日はすべてのことを最大限に生かすことができた。我々はセッション毎に確実に改善しつつある。ただ、来週イギリスGPが開催されるシルバーストーンでは、屈指の高速コースゆえに同じポジションを期待するのは難しいだろう」
エリック・ブーリエ|McLaren-Honda Racing Director
「午後のレースでは、ジェンソンがすばらしい走りをし、力強い結果は期待できないと思っていたサーキットで6位入賞を果たしました。
実際、今週末は我々の強み、資源、そしてチームの決意を最大限に生かすことができれば、自分たちがなにを達成できるのかを示すことができました。
今回の結果は、我々がグリッド上位というポジションに向かって歩み続けていることを明確に示すものであり、チームにとっては重要な転機となります。
一方、フェルナンドは午後のレースで精一杯の走りをしましたが、残念ながら、その努力が報われることはありませんでした。
レース序盤は懸命にプッシュしていたものの、バッテリーパックのシステム不具合によって徐々に阻まれ、ポジションを上げることができませんでした。
その後、問題がさらに悪化したため、レース終了前にマシンをリタイアせざるを得なくなりました。
次戦は母国グランプリとなりますが、高速コーナーとロングストレートからなるシルバーストーン・サーキットで、マシンの強みを生かせるとは思っていません。ただ、我々が継続的に改善できていることは非常に励みになりますし、その思いを胸に次戦に臨みます」
長谷川 祐介|本田技術研究所 主席研究員 F1プロジェクト総責任者
「本日のレースで、ジェンソンは中団グループの中でも十分に速さを発揮し、予選ポジションを生かして、期待通りに6位入賞を果たしました。
一方、アロンソはバッテリーパックのシステムフェイル(問題)が検知され、安全性を考慮してリタイアを選択しました。
両者入賞の可能性があっただけに残念でしたが、このパワーサーキットのオーストリアでも十分にマシンとチームの強みを披露でき、McLaren-Hondaにとって最初のホームレースとなる次戦のシルバーストーンに対して、勇気づけられる結果となりました」
オーストリアGP 2016 決勝結果
順位_/ドライバー/チーム/周回数/差
1_ルイス・ハミルトン
/メルセデス/71/1:27’38.107
2_/マックス・フェルスタッペン
/レッドブル/71/1:27’43.826_+5.719
3_キミ・ライコネン
/フェラーリ/71/1:27’44.131_+6.024
4_ニコ・ロズベルグ
/メルセデス/71/1:27’54.817_+16.710
5_ダニエル・リカルド
/レッドブル/71/1:28’09.088_+30.981
6_ジェンソン・バトン
/マクラーレン/71/1:28’15.813_+37.706
7_ロマン・グロージャン
/ハース/71/1:28’22.775_+44.668
8_カルロス・サインツ
/トロ・ロッソ/71/1:28’25.507_+47.400
9_バルテリ・ボッタス
/ウィリアムズ/70_+1周
10_パスカル・ウェーレイン
/マノー/70/+1周
11_エステバン・グティエレス
/ハース/70/+1周
12_ジョリオン・パーマー
/ルノー/70/+1周
13_フェリペ・ナッサー
/ザウバー/70/+1周
14_ケビン・マグヌッセン
/ルノー/70/+1周
15_マーカス・エリクソン
/ザウバー/70/+1周
16_リオ・ハリアント
/マノー/70/+1周
–_セルジオ・ペレス
/フォース・インディア/69
–_ニコ・ヒュルケンベルグ
/フォース・インディア/64
–_フェルナンド・アロンソ
/マクラーレン/64
–_フェリペ・マッサ
/ウィリアムズ/63
–_セバスチャン・ベッテル
/フェラーリ/26
–_ダニール・クビアト
/トロ・ロッソ/2
–_アルフォンソ・セリス
/フォース・インディア/–