プジョー、新ブランド・アイデンティティで攻めの姿勢を表明


プジョー は2021年2月25日、オンラインでブランド・アイデンティティの発表 に係るワールドプレミアと、国内外の記者を対象に質疑応答会見を開いた。その核となる新たなブランドモチーフは、楯を背景にしたライオンの頭部へ〝フラットデザイン〟的要素が加味されたものだ。(坂上 賢治)

このフラットデザインとは、企業や組織が発案して打ち出したモチーフをベースに、立体感を生む細かい加工などを一切行わず、対象をシンプルかつミニマリズム的に抽象化させてダイナミズムさを競うデザイン手法だ。

こうしたデザイン手法は、1990年代頃までのITソフトウエアで良く見られたリッチ・デザインとは対極を成す平面的なもの。近年のWindows8の「メトロUI」や、iPhoneの「iOS7」などで良く知られている。

ちなみにプジョーの歴史は1810年が創業年だから、通算120年と自動車産業界に於いても古参グループにあたる。

当初はフランス東部・ブルゴーニュフランシュコンテ地域にあるドゥー県の片田舎エリモンクールを拠点に、家族経営の製鉄業としてスタートを切っている。当初は工具類の製造に始まり、傘やスカートを膨らませるためのクリノリン、コーヒーミル、自転車など様々なプロダクトを手掛けていた。

そんなプジョーはこれまで、およそ10種程度に大別されるブランドロゴの変遷 があり、その全てに共通するのがライオンのモチーフだ。最も直近のロゴは2010年から使われ始めたもので、高性能だが手頃で扱い易いプジョーのブランドイメージに、現代的な高級感を与える使命があった。

最も直近の2010年に登場したメタリック調のエンブレム。その源流はフランシュ・コンテ州の紋章にある。
最も直近の2010年に登場したメタリック調のエンブレム。その源流はフランシュ・コンテ州の紋章にある。
404(1960年)のフロントグリルに組み込まれていたエンブレム
404(1960年)のフロントグリルに組み込まれていたエンブレム

今日、11番目となった新ロゴ(上記)は見た目に、近年のプジョーのロゴとは大きく異なり、掛け離れたもののように映るが、実際には、かつて1960年代の404シリーズなど、当時のプジョー車のフロントグリルを飾っていたブランドアイデンティティを現代風に仕立て直したもののように映る。意匠考案は、同社のグローバルブランドデザインスタジオであるプジョーデザインラボ(PEUGEOT Design Lab)が手掛けた。

MATTHIAS HOSSANNデザインディレクター
MATTHIAS HOSSANNデザインディレクター

新たなブランドブランドアイデンティティについてプジョーは、「当社は時代の流れを捉えて社会変革を予測。イノベーション分野でも他社に魁(さきが)ける事で、常に新しいモビリティソリューションの道を拓く企業です。

また我々は、近年の環境意識の高まりに対する社会適応力のみならず、産業技術に於いて、いつの時代も常に先駆者としての経験を持ち続けて来ました。従って、昨今のエネルギー転換とゼロカーボンモビリティは、持続可能な未来を目指す当社戦略の中心にあります。

こうした資質は、元来プジョーのDNAに刻み込まれています。
ライオンをブランドモチーフとする当社は、今後も一貫して過去と未来を繋げ、時代を超越していく存在であり続けます」と語っている。

THIERRY LONZIANOマーケティング&コミュニケーションディレクター
THIERRY LONZIANOマーケティング&コミュニケーションディレクター

実際、近年のプジョーは世界各国で数多くの自動車アワードを獲得。かつての2019年、当時のジャン=フィリップ・アンパラトCEO自らが「我々は車両供給に於いて全方位のオールラウンドプレイヤーです。

従って1000万円以上のEV市場だけで他社と競う事はできない」として積極的かつ広範囲な電動車戦略を掲げ、実際に小型セグメントの208シリーズからEV車を導入。今日に於いても、来たる2025年までに全車種への何らかの電動化モデル導入を早々と宣言するなど、並み居るライバルとは対極の電動車戦略を進めてきた。

今回の新ブランドアイデンティティの発表も、ライバルを追わず、時代そのものを追い続ける同社の変わりの無い姿勢であるとすれば合点が行く流れだ。以下は筆者の私見であるが、同社はおそらく、新しいアイデンティティを旗頭に時代に沿ったダイバーシティ企業を目指すのだろう。

それはワールドプレミアの壇上の設えにもよく現れており、中国へのテコ入れを筆頭とする東アジア・中東地域や米国市場など、これまで同社が振るわなかったマーケット、または上位車市場への積極進出を図る構えなのだと考えられる。

その流れの一環からか、先の1月25日には新ランドトレック発表でピックアップマーケットへの復活を宣言。これまでラインナップしてこなかったこうした大型車両群には、誰が見ても分かり易い新たなブランドロゴは、おそらく映える事だろう。

また先の1月にプジョーブランドの新CEOに就任したリンダ・ジャクソン氏は、ブランドアイデンティティ発表に於ける質疑応答の場で、「現代は変化の流れが速く、そうした社会では日常で次々と消費され続ける〝時間〟が最も希少かつ貴重な資産のひとつになっています。

それは〝時間〟と共にその時々の瞬間をより良く生きる事を指すものです。
これに合わせ、もはやモビリティ価値も移動時の〝移動距離〟を物差しとする基準から、移動中の〝時間の豊かさ〟を中心に据えるものへと変わってきています。

私たちは未来に向けて顧客が費やす時間を、より質の高いものへと変える事が至上命題です。そんな世界でプジョーは、移動の瞬間を心から愉しめる空間と時間を提供しなければなりません。

それはまた提供車両、販売店、関連製品、ウェブサイト、コミュニケーション手段などの全てをひっくるめて質の高い体験を提供する事を意味します。それはシンプルで、効果的で、直感的で、没入型でありつつビジネス指向でもあり、完全な販売体験でなければなりません。

また当社や当社の製品を見付け頂く事を皮切りに、販売、契約、資金調達、下取りなどの全てをオンライン環境でも提供しなければならないのです」と話していた。

なお新ブランドロゴの車両採用は、今年2021年後半に世界公開が予定されている新型308から始まる。

またそれ以前にショールーム(世界20の旗艦店を皮切りに、1500の拠点は2021年末まで。全世界店舗への拡充は2023年まで)や、Webサイトに新ロゴが採用される他、アパレル製品やファッションアクセサリー、食器、文房具などのプジョー・ライフスタイルコレクションにも新しいロゴが相次いで掲げられる。

併せてショールーム、プジョー車のみならず、オンラインも通してエクスクルーシブなコンテンツを提供していくというグローバルブランドキャンペーン「LIONS OF OUR TIME」の展開も計画中だ。

プジョーは、ステランティスグループ傘下で「“time”and living in the moment.」というブランドコンセプトを掲げ、アイデンティティ刷新を契機に自動車産業に於ける100年目の変革期の中で、これまで見せた事のない新たなカードを切っていく構えのようだ。