三菱自動車工業、燃費試験の不正行為に係わる国土交通省への調査報告


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三菱自動車工業株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長兼COO:相川哲郎、以下、三菱自動車)は、同社製車両の燃費試験における不正行為について4月20日に、国土交通省より受けた調査指示に基づき、本日5月18日に報告書を追加提出した。

併せて同社は、「同件に関し、お客様はじめ多数の皆様にご迷惑・ご心配をお掛けしておりますこと、改めて深くお詫び申し上げます」と述べている。

1.軽自動車4車種(『eKワゴン』、『eKスペース』、『デイズ』、『デイズ ルークス』)の調査状況

1)不正事案の概要
14型『eKワゴン』、『デイズ』(2013年2月申請)の燃費訴求車の燃費目標は、競合他車の燃費などを考慮し、5回に渡って引き上げられた。

上記を踏まえ、燃費目標の達成を確認するには、本来は、実車で測定した走行抵抗を使用して燃費測定すべきところ、推定した走行抵抗を使用した。

さらに、届出燃費値は、恣意的な操作によって算出された走行抵抗を用いた値が報告され、会議にて決定されていた。

同型車の他類別(標準車、ターボ付車、4WD車)、その後に発売した『eKスペース』、『デイズ ルークス』、これら4車種の年式変更車の走行抵抗も、14型『eKワゴン』、『デイズ』の燃費訴求車で設定した実現していない走行抵抗を基に机上計算して設定していた。

2)不正事案発生の背景
(1)上記該当プロジェクトは、日産自動車との合弁事業で、重要なプロジェクトだった。
(2) 同プロジェクトは、燃費競争の厳しい軽自動車市場に於いて、他社新型車に対抗するため、クラストップの低燃費を目指すことを開発目標として掲げていた。
(3)性能実験部(以下、性実部)は、職制細則で規定された業務範囲を超えた燃費目標の取りまとめ業務を、恒常的に行っていた。燃費目標を含む目標スペックの設定と達成は、商品開発プロジェクトの業務と規定されていた。
(4)また、燃費目標の取り纏め実務の一部は、性実部経由で三菱自動車エンジニアリング株式会社(当社100%子会社、以下、子会社)に丸投げの状態で委託していた。

3)不正事案発生の原因
ヒヤリング調査の結果、上記経緯と併せ、以下の原因が推定される。
(1)性能実験部長および管理職は、燃費目標達成の難しさを認識していたにも拘わらず、燃費目標達成業務を子会社に丸投げの状態で、子会社管理職からの相談、報告があった場合しか対応していなかった。

さらに、子会社からの報告内容の検証をすることもなく、最終設計品質確認会議等で報告しており、業務責任を果たしていなかった。

また、プロダクト・エクゼクティブ(以下、PX)および開発プロジェクト・マネージャー(以下、開発PM)も、走行抵抗の詳しい確認をせず、燃費値の測定結果報告を受けることに終始していた。

(2)子会社管理職は、当初から計画していたタイでの走行抵抗測定を実施すれば、過去の車両の走行抵抗から机上計算した走行抵抗(推定値)並みの走行抵抗が測定されるものと考えていた。

また、性能実験部長と管理職は、タイでの走行抵抗測定前に、抵抗値の低いデータを法で定められた「惰行法」にて、取って来るように子会社管理職に指示した。

これは、正規の「惰行法」にて測定したデータであれば、「中央値をとらなければならないという社内ルールはない」との認識によるものだった。

(3)しかしながら、子会社管理職は、「高速惰行法」にて測定し、結果的には、測定したデータの中央値では、これまで使用してきた推定値を得ることができなかった。

子会社管理職は、不適切な低い値のデータを使って、机上計算した走行抵抗(推定値)よりも、更に低い走行抵抗を作成し、性実管理職に提示した。

性能実験部の管理職は、提示された走行抵抗を確認し、正規の「惰行法」ではなく、「高速惰行法」のデータであることを知った。

「高速惰行法」はばらつきの大きい試験であり、低い値を取ることは不適切と考えたが、再試験する時間もなく、子会社管理職の作成したデータを承認した。なお、子会社管理職は、正規の「惰行法」での測定経験はなかった。

(4)競合車との競争に勝つため、経営陣からの強い燃費向上の期待を背景として、「開発PMからの燃費目標必達の要請」と、社内会議での開発本部長並びに「PXからの燃費向上の要請」を必達目標と感じていた。審査車ができてからでは、限られたリソースで試験日程が組めなかったことなどを子会社管理職は申告している。

(5)燃費取りまとめ業務が、性能実験部内で完結し、外部からのチェックが十分に及ばなかった。

同社開発の各ゲートにてリスクを顕在化させ、是正することができなかったことなど業務管理、プロセスの問題もあった。

2.軽自動車4車種以外の現行販売車の調査結果
(1) 走行抵抗測定は、『ミラージュ』、『アウトランダーPHEV』、『デリカD:5』ディーゼル車以外の車種は「高速惰行法」で実施していた。
(2)法に定められた成績書を作成する際、試験日、天候、気圧、温度等を事実と異なる記載をしていた。
(3)『RVR』は、走行抵抗を実測せず、不正に操作された他車種のデータから机上計算されていた。
(4)『パジェロ』ガソリン車では、過去の測定データの中から、転がり抵抗と空気抵抗を別の車の低い値を恣意的に組み合わせて使用した。
(5)『アウトランダーPHEV』、『アウトランダー(ガソリン車)』、『デリカD:5』、『RVR』、『パジェロ』につきましては、重量補正・CVTの改良補正・タイヤの改良補正など、過去の試験結果などを基に、机上計算を実施していた。
(6)法に定められた「惰行法」にて走行抵抗を測定し、社内試験で確認した結果、諸元値に対し±3%程度のバラツキはあった。

3.走行抵抗の試験法
道路運送車両法で定められた「惰行法」と異なる当社が使用していた「高速惰行法」の使用の経緯や理由については、以下の通り。

1)「高速惰行法」使用の経緯
(1) 1991年に排出ガス・燃費測定モードが10モードから10・15モードに見直され、併せて走行抵抗測定法が吸気マニホールド内圧力測定法(ブースト法)から現在の「惰行法」に見直された。

その際に、三菱自動車工業では「惰行法」ではなく、1978年から米国向け車両に適用していた「コーストダウン法」をベースにした「高速惰行法」を国内向けに使用した。

(2)正規の「惰行法」では、負荷設定記録に惰行時間および平均惰行時間を記載する必要があるため、1992年1月時点で「高速惰行法」で測定した走行抵抗から惰行時間を算出する計算法のマニュアルが存在していた。

(3)2001年1月には、「惰行法」と「高速惰行法」の測定法による走行抵抗の乖離を確認するため1車種で試験が実施され、最大2.3%の乖離だった。

(4)2007年2月に、試験マニュアル「走行抵抗測定試験方法」の改定で、仕向け地毎の試験法を示す付表を追加した。付表には「DOMはTRIAS」と記載されていた。(注 DOM:日本国内向け、TRIAS:道路運送車両法で定める「惰行法」)

2)「高速惰行法」使用の理由
1991年に道路運送車両法で定められた「惰行法」と異なる「高速惰行法」を使用した理由については、退職者を含め当時の担当者からのヒアリングを行ったが、明確な回答を得られなかった。

正規の「惰行法」に戻す機会が複数回あったにも拘らず、「高速惰行法」を継続していたことに関しては、2001年に実施した、正規の「惰行法」と「高速惰行法」の乖離が最大2.3%であった試験結果を根拠に、「惰行法」の使用を見送っていたと推測している。

4.排出ガス・燃費以外の認証試験について
国土交通省の型式指定審査に利用頂いている自動車メーカーから提出する以下の(1)から(7)のデータ7件については、軽自動車4車種及びその他の現行販売車9車種の状況を点検した。

今回問題を発生させた(1)【排出ガス・燃費試験】の軽自動車4車種は、国土交通省にて走行抵抗を測定し、また現行販売車9車種は正規の惰行法で再測定し、裏付けとなる技術根拠も含め問題ないことを確認致した。(7)【ブレーキ試験(電気的な連結装置)】については、同社では採用していない。

残りの下記(2)から(6)の5件は提出データとその裏付けとなる技術根拠を含め、問題ないことを確認致した。

なお、(2)【排出ガス・燃費試験】については、届け出た周期的制御の補正係数は、試験データと同一であることを確認し、その内、バッテリー補正係数は、試験結果、及び検討結果から排出ガス・燃費への影響が1%以下であることを確認したことから、誤差の範囲と判断し、届出はおこなっていない。

(3)【排出ガス・燃費試験】については、届け出たバッテリーの充電状態に応じた排出ガスの補正係数は当社内にて実測したデータと同一であることを確認した。

(1) 【排出ガス・燃費試験】 乗用車の走行抵抗値。
(2)【排出ガス・燃費試験】 ディーゼル自動車のDPF(ディーゼル微粒子除去装置)等の周期的に作動する装置に係る排出ガスの補正係数。
(3)【排出ガス・燃費試験】 ハイブリッド車等のバッテリーの充電状態に応じた排出ガスの補正係数。
(4)【車枠の堅ろう性確認】 トラック等の車枠強度。
(5) 【ブレーキ試験】 派生型車両の横滑り防止装置に係るシミュレーション結果。
(6)【ブレーキ試験】 ABS性能の確認時に必要となる重心の位置。
(7)【ブレーキ試験】 電気制御ブレーキ性能の確認時に必要となる係数。

5.本件に関する経営陣の関与、認識について
今回の不正事案については、経営陣の直接の指示はなく、開発プロセスを適正に管理する体制を構築していたが、経営陣は開発部門の業務実態を十分に把握できていなかった。

加えて、経営陣の開発日程の短縮や、高い燃費目標を期待する発言が、結果的に不正が生まれる環境を作ったと思われることや、社内管理体制、管理者に対する指導・教育、監査が不十分であったことを認識している。

また、各種法規に基づく業務遂行は、最も基本的なことであり、このことが長期間実施されていなかったことについては、深刻に受けとめている。

同社は、2000年、2004年の品質問題を機に、「コンプライアンス第一」、「お客様第一」、「安全第一」を掲げ、2012年の品質問題においては、「カスタマーファースト・プログラム」を設定し、品質問題の再発防止のため各種改革に取り組んできた。

しかしそれが全組織・全社員の隅々まで浸透していなかったことを重大、且つ、真摯に受け止め、組織体制及び業務プロセスを抜本的に見直し、社員教育の強化を図り、不退転の決意で社内改革を進めていく。

6.今後の対応
(1)過去10年間における現行販売車以外(販売を終了している車両)については、現在調査中であり、別途、報告していく。
(2)本事案の全容解明のため、独立性のある外部有識者のみによる特別調査委員会を4月25日に設置し、当社とは独立の立場で徹底的な調査を委嘱した。同委員会の報告と提言を受け次第、当社として適切な対応を立案し、別途ご報告していく。