アリックスパートナーズ、2025年アジア版経営改革・事業再生調査を発表

アジアでのターンアラウンド&リストラクチャリング調査

グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズ(本社:米国ニューヨーク、日本:東京都千代田区、代表:植地卓郎)は8月14日、アジアでターンアラウンドおよびリストラクチャリングに関与する業界の専門家に調査を実施した。

また上記調査を踏まえた最新レポート「2025年アジア版ターンアラウンド & リストラクチャリング調査」を発表した。

当該調査結果からは、地政学的緊張が経済情勢に影響を与え続けるなか、アジアでは、世界的な市場の不安定性や不確実性に対して楽観的な見方を示していることが判ったという。

この傾向は、アジアがマクロ経済の逆風、各セクターが持つ課題、成長するプライベート・クレジット市場、そして進化するリストラクチャリングの枠組みの中で独自の立場を占めていることを浮き彫りにしているとした。

一方で、回答者の9割以上が政権交代や紛争などの地政学的混乱がアジア地域に於ける企業の経営不振の増加を引き起こす要因になると予測した。

また、約7割が今後1年間で世界的なサプライチェーンの課題が深刻化するとみており、国際情勢が複雑化する中、このような変化がアジア企業のビジネスに与える影響が拡大していることを示していると纏めている。

レポートの主なポイントは以下の通り

  • 2025年は、アジアでは商業用不動産(39%)と金融サービス(35%)の分野で最も財務悪化が生じる可能性が高い
  • 今後12か月間で最も多く財務リストラが見込まれる地域は中国本土(33%)で、次いでシンガポール(22%)、日本(22%)
  • ターンアラウンドおよびリストラクチャリングに関与する業界の専門家の81%が、今後12か月間でアジア経済の成長を予想

地政学的ディスラプションが2025年以降のターンアラウンド活動を促進

アリックスパートナーズによると、アジアのリストラクチャリング市場は、2025年に大きく増加する見込み。

回答者の62%が私的整理によるリストラクチャリングの増加に加え、同水準が倒産するリスクを回避するため、苦境に陥った企業のM&Aが増加するとの見通しを示しているとした。

この傾向は、貸し手からの圧力の高まりも背景にある。また、長期化する高金利の影響により、地域全体で債務返済能力が低下する中、79%が契約条項の厳格な履行が増加すると予測した。

上記傾向についてアリックスパートナーズのパートナー兼マネージングディレクターでアジア・ターンアラウンド&リストラクチャリングサービス部門の責任者リアン・フン・リム氏(Lian Hoon Lim)は、「米国から生じる貿易政策の変化から地政学的ダイナミクスの変化におよぶ持続的なボラティリティは、世界経済の見通しを曇らせ、企業を不安定な状況に追い込んでいます。

この影響がアジアの企業および貸し手全体に『リスク回避』の姿勢が広がり、従来の資金調達手段も不足しました。

ディスラプションが続く中、より多くの企業が流動性を強化し、事業を再構築するために、戦略的なターンアラウンドやトランスフォーメーションに取り組む企業が増える見通しです。

中国本土が地域のリストラクチャリング予測をリード、商業不動産と金融サービスが主要分野として苦境に直面

地域内では、中国本土が今後12か月間で最も多くの財務リストラクチャリング活動を実施すると回答者は考えており(33%)、次いでシンガポール(22%)と日本(22%)が続きます。

アジアでは、2025年に最も苦境に陥る可能性が高いセクターとして、商業不動産(39%)と金融サービス(35%)を挙げており、次いで小売(25%)、製造業(24%)、消費財(24%)、自動車(23%)が続きます」と説明した。

続いてアリックスパートナーズのパートナー兼マネージングディレクターのウナ・ゲ氏(Una Ge)は、「2025年度には、香港特別行政区の不動産セクターへと波瀾が移行しています。中国本土の危機前の無担保融資の急増とは異なり、香港のデベロッパーの債務の大部分は資産担保型となります。

中国の不動産リストラクチャリングでの債券保有者とは対照的に、現在、銀行が主導で再建を進めており、信頼できる運営者に対して猶予を提供しています。

しかし、商業用資産の空室率が約20%程度で、最上級の担保でさえも出口リスクを隠すことは困難といえます」と話す。

これを受けてアリックスパートナーズのパートナー兼マネージングディレクターの丹羽正氏は、「日本では、事業変革に対する需要が増加しているのを目の当たりにしています。

近年の外国投資やクロスボーダーM&A活動の急増に加え、マクロ経済の逆風や継続的なディスラプションにより、日本企業はグローバル競争力と業務能力を強化する必要に迫られています。

アジアは、経済成長と資本の利用可能性において、世界的な悲観論に反発

経済の不確実性が広がっているにも関わらず、アジア地域は驚異的な回復力を示しており、回答者の81%が地域の経済成長が続くと予測しています。

この結果は、地政学的緊張や貿易のディスラプションが世界中で続く中でも、アジアが世界経済の中で独自の立ち位置であることを示しています。

回答者は資本の利用可能性についても強く楽観的な見方を示しており、2024年の調査の49%から上昇し、前年比で60%が増加するとみています。

特に、64%がプライベート・クレジットからの資本が増加すると考えています。これは、高金利と市場のボラティリティが企業の多様な資金調達手段の必要性を高め、投資家をオルタナティブ(代替)資産に向かわせているためです」と語った。

更にアリックスパートナーズのパートナー兼マネージングディレクターのマット・ハインズ氏(Matt Hinds)は、「アジアの貸し手は、リスク軽減と機会獲得の絶妙なバランスを模索しています。

本調査によると、回答者の63%が2025年までに金融・信用条件がより厳しくなると予測しており、これは2024年から11ポイント増加しています。

従来の銀行が慎重を期す一方で、民間のクレジット・プロバイダーが、有意義な利益改善を伴う新たな資本を投下するために、その空白地帯に足を踏み入れています。

アジアにおける資本の利用可能性に対する楽観的な見方は、分散投資と成長機会を求める投資家にとって、アジアが引き続き魅力的な地域であることの現れといえます。

アジアのリストラクチャリングの専門家は、企業の苦境を乗り越える際に、流動性と資本の充足(46%)および債務管理の複雑さ(46%)を最も重要な課題として挙げています」と同地域に於ける傾向を述べた。

流動性、債務、テクノロジーへの投資が、アジアにおけるターンアラウンドが最重要課題

最後にアリックスパートナーズのパートナー兼マネージングディレクターのパトリック・バンス氏(Patrick Bance)は、「アジアの多くのセクターでは、地政学的緊張の高まり、極度の不確実性、そして進行中の貿易戦争など、独自の課題に直面しています。

現在の市場で持続可能な道筋を構築するためには、流動的で綿密な監視と管理、事業のリストラクチャリングの実施、そして財務におけるリストラクチャリングの検討が必要です。

更に新しいテクノロジーの活用が、企業に成長促進、コスト削減、競合他社との差別化を図る機会を提供できるという認識が高まっています。

テクノロジーを活用する企業は、現在の不確実性を乗り越え、より強力な形で浮上するための有利な立場にあります」と結んでいる。

なお同調査は、2025年4月下旬から5月上旬にかけて実施され、回答者は、アジア市場に於ける20以上の主要産業に属するヘッジファンド/プライベートエクイティ、投資銀行、コンサルティング、財務アドバイザーなど、企業の再建に関与する200名。アリックスパートナーズでは、より完全なレポートについてリクエストに応じて提供可能としている。