デンソー、文部科学大臣賞および発明実施功績賞を受賞

デンソー(本社:愛知県刈谷市、社長:林 新之助)デンソーは7月2日、公益社団法人発明協会が主催する令和7年度全国発明表彰で豊田中央研究所と共同で開発した「ダイオードとIGBTを一体化した超低損失な素子構造の発明」が、「文部科学大臣賞」並びに「発明実施功績賞」を受賞したことを明らかにした。

受賞したダイオードとIGBTを一体化した超低損失な素子構造は、トヨタ自動車と豊田中研が基礎開発を行ったSMA(Schottky and Multi-layered Anode/トヨタグループが独自開発したパワー半導体のダイオード低損失化技術)構造を採用し、デンソーが製品化に成功したもの。

全国発明表彰は、日本の科学技術の向上と産業の発展に寄与することを目的とし、多大な功績を挙げた発明、考案、意匠、あるいはその優秀性から今後大きな功績を挙げることが期待される発明などを表彰している。

今回受賞した文部科学大臣賞は、科学技術的に秀でた進歩性を有し、かつ、顕著な実施効果を上げている発明などを対象とした第1表彰区分であり、恩賜発明賞に次ぐ特別賞となる。

発明実施功績賞は、特別賞を受賞する発明が法人である場合に当該法人の代表者に贈られる。なお、表彰式は7月1日にThe Okura Tokyo(東京・港区)にて行われた。

文部科学大臣賞 受賞者
▷山下侑佑氏 株式会社豊田中央研究所 半導体デバイス研究領域 主任研究員
▷町田悟氏  株式会社豊田中央研究所 量子デバイス研究領域 主任研究員
▷杉山隆英氏 株式会社豊田中央研究所 総合企画部 主席研究員
▷斎藤順氏  株式会社デンソー 担当課長(株式会社ミライズテクノロジーズ 出向)

発明実施功績賞 受賞者
▷林新之助氏 株式会社デンソー 代表取締役社長
▷志満津孝氏 株式会社豊田中央研究所 代表取締役 所長兼CRO

発明の概要
車両の電動化で、「三種の神器」と呼ばれる重要なコンポーネントのひとつのインバーターは、電力変換やモーター制御を担うだけではなく、電力の効率的な利用を可能にし、さまざまな電気機器の性能を向上させる重要な役割を持つ。

このインバーターに搭載されているパワーカードは従来、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)とダイオードという機能の異なる 2つの素子が用いられて構成されていた。

これをIGBT による高速スイッチングとダイオードによる整流を組み合わせることで、電池の直流とモーターを動かす交流との相互変換が可能となる。

SMA構造の模式図

ここで、機能が異なる素子を一体化する場合、それぞれの素子の個別最適化が難しく、一体化と素子の個別最適による性能向上の両立が課題となっていた。今発明はダイオードとIGBTの性能を両立して一体化を実現するもの。

従来の一体型IGBTでは、ダイオードのスイッチングによるエネルギー損失低減のため(電荷を消滅させるため)のライフタイム制御(半導体内部にイオンを照射し適切な欠陥を生成すること。スイッチング速度を高めることでエネルギー損失が低減される)が、IGBTのエネルギー損失増加を招くというのが技術的課題だった。

当該発明では、一体型IGBTのバリア層と表面(アノード)電極をピラー層で短絡し、バリア層と表面電極をほぼ同電位とすることで、ダイオード動作時に表面から注入される電荷量を抑制する。

これによりライフタイム制御を不要とし、ダイオードとIGBTの性能を両立した。

また、特殊なライフタイム制御工程(へリウムイオンや、電子線、中性子線の注入が必要な特殊工程)が不要なため、生産性向上にも寄与する。

これは電動車および電動ユニットの価値向上に貢献する技術であり、当該製品を搭載したユニットは2022年以降、累計100万台以上の電動車に採用されている。

(写真は左から)豊田中央研究所 志満津孝所長、豊田中央研究所 杉山隆英氏、豊田中央研究所 町田悟、豊田中央研究所 山下侑佑氏、デンソー 斎藤順氏、デンソー 代表取締役副社長 山崎康彦氏