新エンジンによりCO2排出量削減15%以上を達成。2021年には、全世界のトヨタ車の6割を低排出車両に塗り替える
トヨタ自動車株式会社(本社:愛知県豊田市、代表取締役社長:豊田章男、以下 トヨタ)は、同社・豊田章男社長が就任以来から掲げている「いいクルマづくり」の構造改革「Toyota New Global Architecture(TNGA)」を背景に、2015年発売の4代目プリウス以降、新プラットフォームの採用拡大を積極的に推し進めてきた。
そうしたなか、今秋に本格始動を果たした同社のパワートレーンカンパニーが12月6日、東京都内に於いて、エンジン・トランスミッション・ハイブリッドシステムを一新・進化させた「新型パワートレーン」を発表した。なお同社では、この新型パワートレーン導入を契機に来る2017年以降、一気に搭載車種を拡大していくと云う。
今回新開発したとされるパワートレーンは、軽量・コンパクト化、低重心化、エンジンの高速燃焼、トランスミッションの多段化・高効率化など、動力源としての基本性能を徹底的に見直すために基本骨格を再統一。今モジュール設計を「統一設計」として据え、今後の「素」のいいクルマづくりに於ける基盤にしていくと宣言した。
そんな新型パワートレーンの特長・詳細は以下の通り
新型「直列4気筒2.5L直噴エンジン」
新開発の2.5Lガソリン車用エンジン・ハイブリッド車(HV)用エンジンは、世界トップレベルの熱効率40%・41%を達成。このエンジンポテンシャルを引き出すために、TNGAにより基本骨格を一から考え直し、構造・構成を刷新した。
なおこの新型エンジンをトヨタでは「Dynamic Force Engine」と称し、今後もさらに進化させていく構え。
手を入れた部分は高速燃焼技術、可変制御システムなど。排気・冷却・機械作動時など、様々な場面に於けるエネルギーロスを少なくして熱効率を向上させている。
併せてシリンダー内に於ける燃焼タイミングに、コンピューターによるパラメーター制御を組み合わせ、エンジン回転領域に於ける高レスポンス化と高トルク化を実現している。
新型「8速・10速オートマチックトランスミッション」(Direct Shift-8AT・10AT)
トランスミッションについても、エンジンで発生した出力を駆動トルクに置き換える際のエネルギーロスを最小限にし、動力の伝達効率を高めるために、ギヤやクラッチなどに最新の加工技術を駆使した複数の対策を施している。
具体的にはギヤに、歯面の摩擦係数を低くする新たな加工を施して、ギヤが噛み合う時のエネルギー伝達ロスを削減させた。
さらにこれに続くクラッチは、機構内の摩擦材形状を最適化し、回転時のクラッチの損失トルクを約50%まで低減(従来型6速AT比)して自動車用トランスミッションとしては、世界最高レベルの伝達効率を達成。
加えてトランスミッションユニット自体の小型軽量化に取り組み、車両燃費を向上させた。またこの小型化策は、車体搭載時の低重心化を生みだした。このことで直進およびコーナリングの走行安定性が大幅に向上した。
「ダイレクト&スムース」を開発テーマに、トヨタ車の走りを新たな次元へと導く
実際の駆動状況では、ギヤの守備範囲をワイド化。これに併せて高性能・小型のトルクコンバーターを新開発して組み合わせ、ロックアップ領域を拡大した。
これにより、アクセル操作に素早く、滑らかに反応することで、ドライバーの思いどおりに反応するダイレクト感ある走りを目指した。
特にDirect Shift-10ATは、8速から10速に段数アップしてトータルのギヤ数を増やしながら、低中速域を中心に、各段の使用領域(段数)を最適化するクロスギヤを採用。
これにより、FRプレミアム車にふさわしいスムースかつ世界最速レベルのクイックな変速が生み出すリズミカルで“気持ち良い走り”を追求。
こうした施策により、日常の市街地走行を中心に高速走行まで、質感の高い走りの提供が実現している。
また発進や前車に追従走行している時には、アクセル操作に対してトランスミッションの動きがスムースかつリニアに反応するため、思いどおりにクルマが走行し、素早く、強いアクセル操作にも遅れることなくドライバーのイメージ通りにリズミカルに加速していく。
トヨタハイブリッドシステム(THSⅡ)
4代目プリウスに採用された小型・軽量・低損失化技術を継承し、2.5Lエンジン用ハイブリッドシステムを一新した。さらにFR用の高性能マルチステージTHSⅡも新開発している。
今回取り組んだ2.5LのTHSⅡは、小型・軽量・低損失化技術と、TNGAによる新型エンジンの高い燃焼効率と高出力とのシナジー効果により、優れた動力性能と低燃費の両立を目指した。
このためにマルチステージTHSⅡは、ハイブリッド車の走りのイメージを一新する高い発進加速性能と、ダイレクト感溢れる走りの実現を求めた。
基本性能を徹底的に見直し、優れた走行性能と高い環境性能の両立を追求
これを実現するため、高速走行時に於けるパワーユニット間の相互連携をより向上させたのに加え、こうした高車速域に於いて効率的にエンジン自体の間欠運転を可能にした。この相反しがちな課題に取り組み、高速燃費を向上させている。
その実現のため、プラグインハイブリッドシステムを一新。具体的には、従来のモーター走行に加え、これまで発電機として使用していたモーターを、走行用としても使用できるようデュアルモータードライブシステムとした。
これによって、より力強いEVモード走行が可能となった。この力強いトルク提供の源泉となるリチウムイオン電池も大型化。プリウスPHVのEV走行換算距離(EV走行距離)を60km以上へと大幅に延ばした。
【主要諸元】
– 排気量(cc):
2,487(コンベ用)_2,487(HV用)
– 内径×行程(mm):
Φ87.5×103.4(コンベ用)_Φ87.5×103.4(HV用)
– 圧縮比:
13(コンベ用)_14(HV用)
– 燃料噴射システム:
D-4S(コンベ用)_D-4S(HV用)
– 最高出力(kW/rpm):
151/6600(コンベ用)_130/5700(HV用)
– 最大トルク(Nm/rpm):
250/4800(コンベ用)_220/3600-5200(HV用)
– 排出ガス規制対応 :
LEVⅢ(SULEV30)_LEVⅢ(SULEV30)
新型パワートレーンの今後の展開
今回発表された新型パワートレーンは、TNGAによるクルマづくりにより、基盤技術の開発効率と、品質の向上を目指して開発されたもの。
このユニットと開発・製造ノウハウを活用することで、今後はさらに良品廉価な商品を一気に展開することが可能になるとトヨタでは云う。
今後の具体的計画では、2021年までの5年間で、エンジンについては今発表の2.5Lガソリンエンジンを含め、9機種・17バリエーションをリリース。
トランスミッションについては、多段化AT、新機構の無段変速機(CVT)など4機種・10バリエーションを投入。
ハイブリッドシステムについても6機種・10バリエーションのラインナップを予定しているとする。
車両搭載を拡大しCO2排出量削減を推進。優れた低燃費も手中に
今後、同社はこのTNGAによるモジュール開発ノウハウの蓄積を活かして、これまで以上に短期間で多くのパワーユニットを展開。
これを搭載する車種ラインナップも2017年発売の新型車を皮切りに順次拡大していく。これら新型パワーユニットのカバー率は当面、5年後の2021年にはトヨタ単独の年間販売台数(日本・米国・欧州・中国)の60%以上を目指すと述べている。
結果、この計画が成就すれば、2021年のトヨタ単独販売車からのCO2排出量の削減効果は、新型パワートレーンの燃費向上寄与分だけの換算でも15%以上になると見積もっているようだ。
パワートレーンカンパニーの開発体制の見直し・強化
これらハードウエアの開発体制を固めたことにより、先に立ち上がったばかりのパワートレーンカンパニーの開発体制は、早く見直し・強化が進む。
計画では、今回の新型パワーユニットのリリースで進捗の目処がついたエンジン・トランスミッションの開発促進に加え、これからは車両電動化の推進に向けてパワーユニットカンパニーの開発余力を、モーター・バッテリー・パワーコントロールユニット(PCU)などのハイブリッド技術(電動化技術)の昇華に取り組んでいく。
もちろんこの領域に於ける技術進化は、EVユニット搭載車の開発スピードの向上にも大きな効果を発揮するだろう。
技術共有によるグループ総力のレベルアップ
そもそもトヨタという企業体は、従来より自前主義の理念が根付いており、主要な技術・システムは、「自社での内製により手の内化」することを是としている。
実際、同社では「自社開発で知見・ノウハウ・経験を蓄積することにより、『今日の失敗を、明日の改善』に結び付けることができ、トヨタの研究・開発の進化を支えてきた。
ハイブリッドシステムの開発や世界初の量産型HV「プリウス」の発売、いち早く市販を実現した燃料電池自動車(FCV)「MIRAI」の開発などは、長年の取り組みの成果であると考えている」と云う。
しかし一方で、今後CO2排出量削減に向け、これまで以上のペースで電動化技術の開発・商品展開を進めていくとした場合、トヨタ単独のリソーセスで全て対応していくことは難しい。これは同社にとっても本音だろう。
従って、自社独自で保有すべき技術を厳選して「内製化・手の内化」を果たしながらも、グループ内で技術共有を進め、共同開発分野を拡大していく構えだ。
この部分では、グループ横断的な大部屋による共同開発を強化し、グループ内でのリソーセスを効率的に活用して高い技術の早期確立を図り、「3(スリー)アップ」、すなわち、「グループ総力のレベルアップ」「開発のスピードアップ」「普及・拡大によるスケールアップ」を目指していく。
電動化のコア技術であるハイブリッド技術の開発体制強化
一方でハイブリッド技術の基幹となるのは、モーター・バッテリー・PCUであり、これらはPHV・FCV・EVといった電動車両の基幹技術である。
そこで今後の車両電動化を支え「環境技術開発のコア技術」と言えるハイブリッド技術の開発スピードを加速するために、同社はハイブリッド技術開発の人員増強も計画している。
具体的には、2017年から体制の見直しを進め、2021年までの5年間で、ハイブリッド技術開発者の約30%増強を計画している。
今後、自動車業界はいわゆる「繫がる技術」であるIoTの進展に加え、動力面と云うハードウェアに於けるパワーユニットの転換点。さらに自動車そのものの使い方に関しても、大きなパラダイムシフトの波が押し寄せている。そうしたなか、トヨタグループは、一企業の枠を超えた総力戦で、未来に対する自社の立ち位置を切り拓いていく構えのようだ。
※なお会見にあたって、同社パワートレーンカンパニーのスピーチ内容は以下の通り。
トヨタの環境技術開発への取り組み
トヨタは、「省エネルギー」を進めながら、「燃料多様化への対応」を加速し、さらなるCO2排出量の削減に向けて、グループ一体となって取り組んでいきます。
各国で燃費規制の強化が進み、多くの自動車メーカーが、PHVやEVなど電動車両の商品展開を進める中で、トヨタは、化石燃料を消費する従来型のエンジンやトランスミッションの進化に取り組んでいます。
この理由は、CO2排出量削減を着実に進めるためです。
1997年、トヨタは世界初の量産型HV「プリウス」を発売しました。以来約20年になろうとし、日米欧を中心に徐々に普及してきていますが、グローバルではまだ普及というレベルには至っておりません。
日米欧を中心に投入されたPHV・EVの普及もこれからです。
市場の大多数は従来型のエンジン車であり、ガソリン・軽油といった化石燃料を大量に消費し、依然として、多くのCO2を排出し続けています。
CO2の排出量が少ない、あるいは排出量がゼロの電動車両の普及が進み、CO2排出量の削減効果が表れるまでには、まだかなりの時間を要すると考えられます。
しかし、地球温暖化の進行にストップをかけるために、原因の一つとされるCO2の排出量削減は、喫緊の課題です。
当面、市場の大多数を占める自動車は従来型のエンジン車であり、今後さらなる普及が進むHVやPHVにもエンジンがあります。
このように、今後も長い間、化石燃料が自動車燃料として使い続けられる状況を考えると、エンジン・トランスミッションの環境性能が向上すれば、車両台数の普及と相まって、CO2の排出量削減が一段と進みます。
従来型パワートレーンの技術開発は、CO2排出量削減に向けて、「確実・着実・現実的で、実行効果が期待される取り組み」であると、トヨタは考えています。
「燃料多様化への対応」によるCO2排出量のさらなる削減
HVやPHVの普及によるCO2排出量削減のさらにその先に求められることは、CO2の排出量ゼロです。FCVやEVといったゼロエミッション車の普及が必須です。
これは、自動車用燃料として化石燃料以外の水素や電気を使うことであり、新たなパワートレーンとして、燃料電池(FC)システムやモーター・バッテリーPCUなどの電動化の技術開発が求められるということに他なりません。
トヨタは、化石燃料に替わる自動車用燃料としては、水素と電気が有力であると考え、走行中にCO2を排出することなく、環境貢献効果の大きいFCV・EVといった、ゼロエミッションカーの開発、市場導入を進めていきます。
各国・地域のエネルギー事情、燃料インフラ整備状況、お客様の嗜好などの市場環境を踏まえ、FCV・EVの棲み分けを図りながら普及に取り組み、CO2排出量のさらなる削減を目指しています。
しかし、「燃料多様化」への道のりは容易ではありません。自動車のみの対応では、実現できません。
お客様に安心して新しい燃料のクルマに乗っていただくための、燃料の供給インフラの整備が不可欠です。
エネルギー会社にとっては、新たな投資が必要となります。政府・自治体による支援も欠かせません。
FCVに関する取り組みと、その成果成就に至る道程
新しい燃料に対する社会・お客様の理解も必要です。長年、慣れ親しんだガソリン・軽油といった燃料とは違い、充填する場所・充填にかかる時間・充填方法・価格など多くのことが異なるからです。
今使っていただいているクルマへの燃料充填と同じ利便性があるとは限りません。お客様の「価値観の多様化」が求められます。
特にFCVは、水素という普段の生活の中ではほとんど接することがない燃料を使います。
水素は、様々な一次エネルギーからも作ることができるため、環境効果のみならず、エネルギーセキュリティの面からも将来的に活用が見込まれる有力なエネルギーです。
水素を化学反応させて発電し、CO2を出さずに走行するFCVは、「究極のエコカー」として高いポテンシャルがあり、トヨタは20年以上も前から開発に取り組んでいます。
しかし、水素に対する社会・お客様のご理解、水素ステーション整備などの課題があります。FCVの普及、「水素社会」の実現にはまだ時間を要します。
そこでトヨタは、いち早くFCVの市販化プロジェクトに取り組み、2014年の日本での「MIRAI」発売を皮切りに、米国・欧州での発売を実現したのです。チャレンジしたのです。
これが、「水素が当たり前の社会」「FCVが普通のクルマ」になるまでの、トヨタの長いチャレンジの始まりです。