トヨタ自動車、新世代モビリティへの移行研究で北米地域に於いて5年間・3500万ドル規模の投資へ


23の団体と44の研究プロジェクトを実施してきた米国・先進安全技術研究センター(CSRC)で、新たな技術研究計画「CSRC ネクスト」を発表

トヨタ自動車株式会社(本社 : 愛知県豊田市、代表取締役社長 : 豊田章男、以下トヨタ)は、交通事故死傷者の低減を目指し、北米の大学や病院・研究機関等と共同研究を行う「先進安全技術研究センター(Collaborative Safety Research Center、以下CSRC)」に対して新たな大型投資計画を打ち出した。

具体的にトヨタは、上記拠点「CSRC」で、2011年の設立当初から5年間行ってきた自動車の安全に関する研究成果を発表。併せて、同時に次の5年間の研究計画も改めて公表した。

この「CSRC ネクスト」と称するトヨタの次を見据えた新計画に於いては、自動運転や、つながるクルマの課題や可能性について、集中的に研究を行っていく構えだと云う。

このためCSRCを舞台に、2021年までに3500万ドルの規模で、新時代のモビリティに安全に移行するための研究を進める。そのテーマは4つ。その個々の方向性は以下の通りとなる。

(1)様々な衝突形態に対応する為の、センサーの高度化による予防安全・衝突安全技術の統合していく。

(2)自動運転技術など、先進技術を搭載したクルマを、ドライバーのみならず、交通社会全体を見据えてより使い易く、より人間の感覚に合ったクルマとするための開発モデルづくりを研究していく。

(3)ドライバーの心理状態や健康状態を具体的な数値で把握することで、より良いモビリティに繋げていく研究を行っていく。

(4)ビッグデータと安全の分析手法を活用して、より現実の交通環境に即した運転データを研究できるアルゴリズムやツールを開発していく。

上記を踏まえ、CSRC所長のチャック・グーラッシュ氏は、今後の新たな研究への取り組みについて、「今回立ち上げていく『CSRC ネクスト』は、進化する車両技術に対して、人間がどう対応していくのかを理解することが大切であるという、トヨタのスタンスを反映している。

これからの先進安全技術に関わるシステム造りは、自動車交通のあり方を大きく変え、ドライバーや乗員とクルマが一体となって、安全かつ便利なモビリティを実現するという、チームメイトのような関係を築いていくべきものである。

私たちCSRCのメンバーは、このように新時代を見据えた上でモビリティに関わる研究とその成果を、より多くのステークスホルダーと共有し、かつ安全な形で進化させつつ、より望ましいものにつなげていきたいと考えている。

そんな想いを前に、CSRC設立以来、継続的に真摯な姿勢で行ってきた安全向上というミッションについては正直、この段階で改めて身が引き締まる思いを持っている」と話す。

「CSRC ネクスト」に関わる大学は6拠点。研究プロジェクトは8つに及ぶ。

トヨタが、この新計画「CSRC ネクスト」を立ち上げた現時点で、設けられた研究プロジェクトは8つで、6つの大学とパートナーシップを組む予定だ。

その中のひとつに、マサチューセッツ工科大学(MIT)Age Labと実施する、自動運転車向けの新システムに関する研究がある。

これは周囲の対象物を確認し、交通流の中で他の交通とのやりとりを理解するという、画期的なシステムに関わるものである。

またそれと同時に、バージニア工科大学とは、総合的な安全システム(ISS・予防安全、衝突安全の双方を含む)の充実を以ってしても、なお残り得る将来の安全上の問題について、推測する研究を行う。

北米の自動運転研究開発の一部も担い、TRIやTCとの協力体制もさらなる強化を目指していく。

ちなみに米国の自動車社会の未来を担うCSRCは、北米における自動運転研究開発の一部も積極的な姿勢で手掛けおり、今後はトヨタ陣営のTRI(Toyota Research Institute, Inc.)や、TC(Toyota Connected Inc.)などとも協力体制をより強化していくと云う。

そしてCSRC自体は、より実際的な自動運転技術開発のスピードを加速させることから、複雑さを増す新時代のモビリティと将来の社会のトレンドについても同時並行で調査していく構えだ。

なおこの「CSRC ネクスト」がスタートを切ったということは、このスタートにさかのぼって、CSRC設立以降5年にわたる安全研究の成果を、公式に結論付けるものでもあると云う。

北米の大学だけでなく、病院や研究機関と共に成果を挙げてきたプロジェクトはすべてのオープンにしてきている

実際CSRCは、2011年の設立以降、CSRCは自動車業界のなかでユニークな活動を進めてきた。

例えば、北米の大学や病院、研究機関と共に、事故の死傷者を減らすことを目指すプロジェクトを共同で進めてきたこと。

さらに全てのドライバーにメリットを提供できるよう研究成果についてはベールに包む事無くすべての公のものにしてきている。

この5年間に、CSRCは23の大学と共に44の研究プロジェクトを立ち上げ・完了し、200以上の論文を発行、また様々な車両安全関連の会議でも研究プロジェクトを発表。

この間のCSRCの研究成果は、実社会への目に見える形の貢献として、トヨタ車の安全性向上にも貢献してきている。

これについては例えば、コンピューターによる衝突シミュレーションの能力向上、高度運転支援システムの作動をより的確なものにする研究といった例が幾つもある。

CSRCに於ける研究は、米国のみならず世界の自動車業界全体としても、安全性向上に貢献してきた

しかしCSRCの本来の影響力は、単にいちメーカーであるトヨタ車の安全性を向上させることだけには留まっていない。CSRCのプロジェクトは、米国のみならず世界の自動車業界全体としても、安全性向上に貢献してきたのである。

その一例として挙げられるのは、SAE(Society of Automotive Engineers)のような、国際機関における安全基準づくりにも貢献してきたことである。

また車両安全に於けるヒューマンファクターの研究。予防・衝突双方の安全システムの効果の研究。

さらに安全運転のデータやデータ解析のための新ツールの開発も実施し一定の成果を印してきている。トヨタによると、近年の救急医療の推進についても、CSRCの研究成果のひとつだと云う。

その例では、ミシガン大救急医学部とのプロジェクトがその好例になるだろう。

同研究では、運転中の心筋梗塞・心筋虚血を含む、重篤な心臓病の発症を、不要なノイズに紛らわされず確実に検知・もしくは予測する技術を開発した。

さらに「CSRC ネクスト」の一部として、院内、もしくは運転中に心臓病を発症した患者から収集した脳波データを機械学習にかけ、運転中の心臓病の発症を検知・予期するモデルを作る研究を実施している。

CSRCの使命は、トヨタの信念、即ち、良い考えを共有することで良い結果が生まれるとの信念に基づくもの

また同じく医療技術に関わる領域では、ネブラスカ大メディカルセンターと共に行う研究もある。

これはインシュリン注射を行う糖尿病患者のドライバーをモニターし、運転中の安全のために、血糖値を常時モニターするシステムの実証研究を行ってきている。

この中で、実際の運転行動を評価し、どんな血糖値のレベルやパターンのコントロールが必要かを決める手法について研究を重ねてきている。

先のCSRC所長のチャック・グーラッシュ氏は、こうした医療分野に関わる研究成果について、「CSRCの使命は、トヨタの信念、即ち、良い考えを共有することで良い結果が生まれるとの信念に基づくものである。

我々が自動車の安全向上に向けてこの5年間、取り組みを進め、北米全体の大学における次世代の研究者を支えることが出来た事を含め、この5年にわたり行ってきた研究を誇りに思う。

このことは、『CSRC ネクスト』の立ち上げにあたって大きな自信を与えてくれた」と、その足跡について誇らしく語っている。

その他、CSRCが行った最初の5年間の主要なプロジェクトには、衝突回避支援システムのテスト手法を開発したインディアナ大・パーデュー大におけるプロジェクト。

またオハイオ大学と行った、人体のレーダー反射特性を考慮した歩行者回避支援PCS用のテストダミーの開発も含まれる。

こうした結果と実績を携えて米国先進安全技術研究センターことCSRCは、6月5-8日にデトロイト市で開催される、NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration : 米国運輸省道路交通安全局)主催の、ESV会議にも参画する予定であると、トヨタでは結んでいる。