国交省、旅客フェリーの自動運航システムに船舶検査証書を交付

国土交通省は12月5日、旅客フェリー「おりんぴあ どりーむ せと」の自動運航システムについて、安全基準への適合性を確認し、我が国初の船舶検査証書を交付した。当該船は岡山~小豆島を結ぶ旅客船。周囲を監視して相手船などを見つける認知、衝突・座礁を回避するルートを考える判断、そして判断結果に基づいて実際に舵を動かす操作といった機能を有するシステムを搭載している。

一般乗客が乗船する定期旅客航路に於ける自動運転レベル4相当での商用運航の開始は世界初となる。

現在、国内には400以上の有人離島があり、船員不足等で生活航路の維持が課題となるなか、今回の運航開始を皮切りに船の自動化が加速することで、離島に於ける安定的な人・モノの輸送手段が確保されることに期待が集まる。

但し現時点では、船員が常時乗船し無線通信対応や灯火・形象物の監視などを行いながら運航を重ねていくという。

ちなみに検査証書を交付した国交省・海事局では、自動運航船の2030年頃までの本格的な商用運航の実現に向けて「自動運航船検討会」での議論を踏まえ、本年6月に自動運航船の安全基準の策定を重ねてきた。

そうしたなかで、日本財団(東京都港区、会長 尾形武寿)が進めているプロジェクト「MEGURI2040」の中で開発された自動運航システムを搭載した旅客フェリー「おりんぴあ どりーむ せと」を安全基準に基づいて船舶検査を行い、12月5日に当該システムを搭載する船舶として我が国で初めて船舶検査証書を交付した。

このMEGURI2040とは、日本財団が少子高齢化による船員不足、ヒューマンエラーによる事故の減少等を目指し、無人運航船の実現と人や物資の安定的な輸送を目指すべく2020年2月から推進しているプロジェクト。

そのなかでの「おりんぴあどりーむせと」は、2025年度中に商用化予定の自動運航機能搭載船舶、計4隻のうちの第1弾となるもので、一般乗客を運ぶ旅客船としては唯一となる。

2022年1月~3月に同プロジェクトの第1ステージの一環として実施された実証運航では、船舶交通量の多い「輻輳(ふくそう)海域」として選定された東京湾での運航や、長距離(北海道苫小牧から茨城県大洗までの約750km)・長時間(18時間以上)の無人運航を成功させた。

第1ステージの知見を活用して進行中の第2ステージでは、より環境負荷が小さい輸送手段へ転換する「モーダルシフト」を担う一翼として、旅客船やコンテナ船、RORO船(貨物を積んだトラックやトレーラーが自走して乗り降りできる船)といった様々な船舶を商用運航させ、社会実装することを目指しているという。

これにより、新岡山港(岡山県)と土庄港(香川県)間で一定の条件下で自動化された運航が開始。今後、「自動運航船検討会」に於いては、当該船を筆頭とする自動運航船の実証運航を通じて、船員の労働負荷の変化を検証していく構えだ。

また当該プロジェクトで残る3隻の自動運航技術の実証等について同財団では、引き続き技術開発を進めながら、自動・無人運航に係るルールや法整備、社会的な理解も促しながら、2040年には内航船の50%の無人運航化を目指すとしている。

この自動運航船の認可取得について日本財団 常務理事の海野光行氏は、「無人運航の社会実装に向けて最も重要なのは、実例や実績をとにかく積み重ねていくことです。

日本財団 常務理事の海野光行氏(写真提供:日本財団)

今回、その第一歩を踏み出せることを大変うれしく思います。今回の挑戦や、今後の商用運航から得られた知見をもとに、船員の負荷軽減を通した物流の安定や航行の安全はもちろん、国際的なルールづくりへの貢献も進めていきます」と話している。

また両備ホールディングスで代表取締役CEO兼グループCEOを務める小嶋光信氏は、「離島を結ぶフェリーが商業運航可能な自動運航船として認められたことの意義は非常に大きく、海運の新時代を示す大きな一歩です。

この技術は、安全性の向上、海難事故の削減、そして船員の労働負荷軽減という価値を築きました。社会実装を進め、業界と共に未来の海上輸送を築いていきたいと考えています」と述べている。

両備ホールディングス、小嶋光信 代表取締役CEO兼グループCEO(写真提供:日本財団)

なお「おりんぴあどりーむせと」及び実証実験・船舶検査についての概要は以下の通り

同船は、国際両備フェリーが運航する全長約66メートル・旅客定員数500名の離島航路船で、新岡山港(岡山市)から土庄港(香川県・小豆島)を結んでいる。

MEGURI2040では、離島航路における自動化実証のための試験船として使用されてきた。

船舶往来が盛んで障害物となる島や岩礁も多い瀬戸内海域において、センサーやプランナー(避航ルートを自動で計画)等のシステムが適切に動作するか等を確認するための安全性評価が進められ、2025年12月5日、国内初となる「自動運航船」として国の船舶検査に合格した。

船舶を航行させるためには、国が定める技術基準に適合しているかを確認する船舶検査に合格する必要がある。

国土交通省では2024年6月、自動運航船に係る安全基準・検査方法などを検討する「自動運航船検討会」を設置し、2025年6月に検討結果を公表した。

「自動運航船」として航行するためには計2回の検査を受ける必要があり、1回目は一般船舶と同様に設計段階・機器搭載前・船上で実施され、合格すると「初期段階の自動運航船」(自動運航システムのすべてのタスクに人の介在が必要)として検査証書が交付。

次いで二回目の検査にクリアすると「自動運航船」として運航可能になるが、おりんぴあどりーむせとは2025年7月と12月、これら2回の検査に合格した。

参考:国土交通省「自動運航船の検査方法の概要」 https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001884711.pdf

MEGURI2040開始の背景・これまでの経緯

自動車分野を中心に自動運転の実証実験が進められる一方、船舶については、船陸間の通信環境整備や障害物を瞬時に避けることが難しい等の技術面、開発への莫大な資金が必要等の経済面から、これまで運航の無人化を実現する自動運航船の開発は、殆ど行われていなかった。

しかし一方で日本は、ICT(情報通信技術)、AI(人工知能)や画像解析技術をはじめ、世界的に高い技術を保持していることから、これらの技術を持つ複数の民間企業が共同で技術開発を行うことで、無人運航船に係る技術開発を飛躍的に進められる可能性があった。

そこで日本財団は、無人運航船の実現に向けたプロジェクト「MEGURI2040」をスタート。

第1ステージでは計6隻の実証船について、2022年1月から3月にかけて自動運航実証を実施し、2022年度から開始した第2ステージでは、「商用運航(社会実装)」を目標に掲げ、4隻の実証船に於いて自動運転レベル4相当を目指す技術開発に加えて、国内外のルール整備や保険制度の整理、ユーザーニーズの開拓等の周辺環境整備等を併せて推進してきたという経緯がある。

上記、各フェーズについて

・第1フェーズの概要動画(提供:日本財団)

・第2フェーズの概要動画(提供:日本財団)

 
 




 
 

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