フォード傘下の戦略子会社「フォード・スマート・モビリティ」は米国時間の11月8日、電動キックスクーターのシェアリング企業「Spin(スピン)」を1億ドル規模の投資コストを投下して買収。都市で「移動サービス」を求める消費者に対して、ラストマイルの移動ニーズ充足を図っていく。( 坂上 賢治 )
このフォード・スマート・モビリティの親会社であるフォードモーターは、誰もが知る1903年に創業した老舗企業である。創業5年後の1908年にT型フォードの生産を開始。
以来、通算115年間にも及ぶ実績を今も刻み続けている。それは自動車業界で最上位にあたる格式を持つ企業と言っていいだろう。
そんな同社は今から2年前の2016年、今日に至る自動車メーカーのデファクトスタンダードを打ち立てた自らの歴史のすべてをかなぐり捨て、新たな「モビリティサービスの形」を模索し続けている。
その想いについて2017年5月に先代のマーク・フィールズ氏を押し出して新CEOに就任したジェームズ・ハケット氏は、「地上に於けるすべての交通システムの在り方を全面的に再定義する時代が到来した」と宣言。
翌2018年の春にモビリティ事業全域の再編計画を発表。これまでの「自動車製造」と「販売」という範疇から突き抜ける新たな事業として、今日考えられる地上での移動手段の全域を「フォードブランド」でカバーすることを本気で目指している。
それは移動時に利用されるハードウエアに始まり、インフラストラクチャーを含むプラットフォームサービス全域、そして移動そのものをいかにビジネスマーケティングするかに至る領域まで一気通貫させるという壮大なプランであり、今回のSpin買収もこの流れの一環である。
そしてSpin買収は、利用者が「より簡単に」「より迅速に」「より安価」に移動することを手助けすることにある。
近年、各国・地域毎にラストマイルを移動するための「乗り物」の種別は多種多彩であるから、利用で供されるマイクロモビリティは、地域に合致した「機敏」で「適応性」の高い乗り物でないと生き残ることはできない。
特に日本に比べ、地域の公共交通手段が圧倒的に未整備な米国では、西海岸一帯で活発に利用されている電動キックスクーターが、手頃なシェアリングコストのおかげで都市活動者に最も適したソリューションとなっている。
また電動キックスクーターならではの手軽さは、「都市生活で交通渋滞を避ける」、「駐車場の確保対策」などの手狭な空間の制限を受け難いこと。さらに「都市の空気を汚す」という二次的な公害削減にも役立っている。
そうした理由からフォードは、「ワシントン・デトロイト・フロリダ・デンバー・ロングビーチなど米国内の13の都市と5つの大学キャンパスで定着しているSpinは、マイクロモビリティのトッププロバイダーであり、同社の買収で移動サービスに関わるビジネスチャンスを大きく加速させられることに心を躍らせています。
Spinを介して我々は、都市や大学と協力するなどしてマイクロモビリティの利用環境を持続的かつ安定的に展開していくことをお約束します。そして次世代モビリティに関する包括的な事業設計の完成を目指していきます。
またこのアプローチは、フォードのブランド価値と、利用頂く皆様の機会価値というふたつの価値の拡大化を結びつけていきます」と語っている。
一方日本では、移動の末端を担うラストマイルを支えるべきマイクロモビリティの姿が未だ見えてきていないが、その姿と形を紡ぎ出す企業こそが、わが国のMaaS市場に於いて新たな金鉱を探し当てることになるのだろう。