非白金族電極触媒を用いた酸素還元反応の微視的機構解明への一歩を踏み出す
NIMSと北海道大学、ドイツ・ウルム大学の国際共同研究チームは、炭素材料が1 at%以下の微量の窒素導入で、燃料電池の鍵である酸素還元反応に対して活性な電極触媒になることを発見し、その活性化の仕組みを説明することに成功した。
これは炭素材料が1 at%以下の微量の窒素導入で、燃料電池の鍵である酸素還元反応に対して活性な電極触媒になることを発見し、その活性化の仕組みを説明することに成功したもの。
現在一般に、同触媒として用いられているのは、希少な資源である白金族金属であるが、この研究結果により資源的制約のない持続可能な材料を用いたエネルギー生産へ向けての基礎応用研究の活発化に期待が集まっている。
そもそも燃料電池の正極で用いられる酸素還元反応 (ORR) は、活性化が難しい反応であり、この反応が燃料電池の効率を決めている。
これまでは、白金など特別な金属のみがORRを活性化させ、高効率にできると考えられてきた。しかし近年、炭素に窒素を導入した材料でも同反応を活性化できることが報告され、高価で希少な資源である白金を、ありふれた炭素や窒素で代替できれば、環境負荷の低い燃料電池を現在より安価で資源的な制約なく製造できるようになる。
しかし、なぜ炭素と窒素でORRが活性化するのか、その仕組みと詳細が今まではっきりとは分かっていなかった。
そこで今回、NIMSを中心とする研究チームは、異なる窒素の含有量と化学構造を持つ複数の清浄なモデル炭素触媒を調製し、それらを用いて反応全体の効率を決めている過程と酸素吸着の仕方を調査。
さらに触媒表面の形態や窒素分布を詳細に観察し、実験系が正確に反映された理論モデルを設計して、炭素触媒を用いたORRの微視的電極過程を解析した。
その結果、微量な窒素導入のみで炭素がORRを活性化させることができることを示し、その具体的な機構を実験と理論により説明することに成功した。
炭素が電極触媒として活性化する機構を理解できれば、より高活性な炭素系電極触媒の設計や、それらのより詳細な微視的電極過程の解析をする助けになる。このため今後は今回得られた知見を基盤に、より高い特性を示す炭素系触媒を探索することで、ありふれた元素による高効率な電気エネルギーを生産可能とする材料の合成を目指すとしている。
ちなみにこの研究は、NIMSエネルギー・環境材料研究拠点の坂牛健 主任研究員とドイツ・ウルム大学Markus Eckardt大学生 (博士課程 / NIMSインターンシップ制度による研修生) 、北海道大学大学院理学研究院の武次徹也教授、ウルム大学表面化学・触媒部門のR. Jürgen Behm教授らによって行われた。
また同研究はJSPS科学研究費助成事業若手研究(B)(17K14546)および基盤研究(B)(16KT0047)、文部科学省「ナノテクノロジーを活用した環境技術開発プログラム」および同省ポスト「京」重点課題5「エネルギーの高効率な創出、変換・貯蔵、利用の新規基盤技術の開発」、国際科学技術財団研究助成の支援を受け、かつ研究成果は、米国化学会誌ACS Catalysis の速報版として2018年8月9日に掲載されている。
掲載論文
題目 : Microscopic Electrode Processes in the Four-Electron Oxygen Reduction on Highly-Active Carbon-based Electrocatalysts
著者 : Ken Sakaushi, Markus Eckardt, Andrey Lyalin, Tetsuya Taketsugu, R. Jürgen Behm, and Kohei Uosaki
雑誌 : ACS Catalysis
掲載日時 : 2018年8月9日12時 (日本時間10日午前1時)
DOI:10.1021/acscatal.8b01953