独ダイムラー、エヌビディアと次世代の自動運転車開発へ


先の6月19日(欧州時間)、BMWとの自動運転車開発を一旦保留すると発表したダイムラーAGは4日後の6月23日、米エヌビディアと車載コンピュータの研究とAIクラウドの構築で協業すると発表した。(坂上 賢治)

同日、ダイムラーAG取締役会会長兼メルセデス・ベンツ・カーズのオラ・ケレニウス(Ola Kallenius)統括と、エヌビディア(NVIDIA)創業者のジェンスン・フアン(Jensen Huang)CEOは、米国(太平洋標準時の10時30分)と独国(欧州中央時の19時30分)をオンラインで結ぶオンライン記者発表を実施。

両社の協業を通して来る2024年から、エヌビディア製・最新SoC(System on Chip/ワンチップ上に応用目的の機能も集積した集積回路)「Drive AGX Orin(ドライブ・AGX・オーリン/以下、オーリン)」を搭載した次世代のメルセデス・ベンツがリアル環境で走り出すことになると宣言した。

そんな次世代車で実現する機能のひとつは、ここのところ永年期待を集め続けている完全自動運転機能であり、さらにその他の搭載機能についてもオンラインアップデートで機能向上が果たせるようになるという。

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは「数多のイノベーションを100年を超えて蓄積し続けて来たダイムラー社の歴史と、短期間で飛躍を繰り返してきた当社の革新的なコンピューティング技術。その組み合わせは両社にとって完璧なパートナー関係になると信じています。

オラ氏とダイムラー社の技術チームとの広範な議論から、未来の自動車に関するビジョンを我々は互いに共有できていることは明らかです。これから我々は自動車の利用体験で革命を起こします。

具体的には、今後登場するNVIDIA DRIVE SYSTEM(エヌビディア・ドライブシステム、以下、エヌビディア・ドライブ)を搭載したメルセデス・ベンツには、当社のAI・ソフトウェアエンジニアの専門家チームが付きっ切りで携わり、車両の生涯を通じて継続的に性能・機能の改良・強化を施していきます」と語り掛けた。

一方、ダイムラーAGのオラ・ケレニウ会長は「エヌビディアとの協力関係を拡大できることを心より嬉しく思います。ジェンスンと私は、互いの事業上の目標を理解し合っており、私たちは次世代自動車に搭載すべきコンピューティング・アーキテクチャの可能性を話し合うために多くの時間を費やしてきました。

今回、合意に至った新プラットフォーム環境は、未来のメルセデス・ベンツ車にとってベストな選択肢です。 というのはエヌビディアのAIコンピューティングアーキテクチャが自動運転車実現への一番の近道だからです。

今後、車両のアップグレードや新機能の搭載はクラウド環境から提供され、その都度、安全性が高められ、年を追う毎にかつて購入した車両の付加価値が向上し続けます。これによりメルセデス・ベンツを所有することに対してユーザーの顧客満足度はさらに高まっていくでしょう」と述べた。

そんな新たなメルセデス・ベンツに搭載されるオーリンは、Drive AGX Xavierの後継チップで170億個のトランジスタを搭載。90億個のトランジスタを搭載するXavierの2倍のサイズでありながら電力効率はXavierの3倍、性能では約7倍(INT8データで200TOPS)の実力を持っている。

エヌビディアの現行アーキテクチャ「Volta(ボルタ)」から引き継がれたAI性能はさらに磨かれ、同社のA100GPUを8連装したスーパーコンピュータ「DGX A100」に匹敵する性能を持っているという。またオーリンはTOPS(演算性能)のみならず、自動運転車の内部で実行しなければならない複雑で大量のアルゴリズムを処理するために設計されている。

オーリンには、自動運転レベル5(2000TOPS、800W)から、レベル2+向けオーリン(200TOPS、45W)、ADAS向けのオーリン(10TOPS、5W)までがラインアップされている。そのなかで今回の協業では、最もハイエンドな200TOPS版オーリンを採用。これを使い自動運転プラットフォーム「エヌビディア・ドライブ」ベースで自動運転環境を構築する流れとなる。

もとよりエヌビディアの自動運転機能は、車両搭載のハードウエアに組み合わせる形でソフトウェア環境が作られていることから、メルセデス・ベンツの利用体験に革命を巻き起こすことになる。というのはOTA(Over the Air/オーバー・ザ・エア)を介したサブスクリプションサービスの追加購入のみならず、車両の耐久寿命が許す限り〝自動バレーパーキング〟などの自動運転の付帯機能が継続的にアップデートされるようになるからだと結んでいる。