国立研究開発法人物質・材料研究機構こと略称NIMS (ニムス、本部:茨城県つくば市、理事長:橋本 和仁)と東京大学、理化学研究所、京都工芸繊維大学による研究チームは5月31日、結晶構造を自在に制御できる電子伝導性配位構造体が蓄電池の電極材料として有望であることを発見した。
この結果、今研究成果を基盤に現在使われている酸化物以外の電極材料探索の可能性が広がり、蓄電池の更なる高性能化に貢献できると期待されている。
より具体的には、配位構造体と呼ばれる材料群に関して、これらは結晶構造を自在に制御でき、内部空間を活かして選択的な分子吸着性など様々な物性の制御や機能の付加ができるため、予てより大きな注目を集めてきた。
特に最近ではエネルギー貯蔵に関わる物性を調節することで、配位構造体を次世代蓄電池の電極材料として機能させ、蓄電池の高エネルギー密度化や長寿命化を目指す研究が盛んになっている。しかし、配位構造体の電子伝導性が低いことが、電極材料としての応用の障壁となっていた。
今回、NIMSと東大の研究チームは、この金属的電子伝導性を示す電子伝導性配位構造体が、これまでの物質とは異なり電子の移動を伴ったエネルギー貯蔵反応に対して高い特性を示すのではと予想。
この仮定の下、理化学研究所と京都工芸繊維大学の研究チームと協力して、電子伝導性配位構造体の詳細な電気化学特性や大型放射光施設SPring-8を用いた結晶構造の調査を詳細に行った。
その結果、電子伝導性配位構造体がイオンが電気化学的に物質の中に出入りすることで、エネルギーを貯めたり放出したりするエネルギー貯蔵機構を示すこと、代表的二次電池正極材料系である酸化物と比肩する特性容量を持つことを世界で初めて発見した。
今後は、電子伝導性配位構造体の電気化学特性と構造の相関をより包括的に調査し、そのエネルギー貯蔵原理を解明することで、蓄電機能の高特性化に必要な鍵因子を明らかにするなど、有望な蓄電材料の探索を加速するための指針を示すことができると期待されている。
なおこの研究は 、国立研究開発法人物質・材料研究機構エネルギー・環境材料研究拠点主任研究員の坂牛健博士と同機構研修生・東京大学理学系研究科博士課程の和田慶祐君、東京大学理学系研究科の西原寛教授らによって行われた。
また同研究は、NIMS連携拠点推進制度とJSPS科研費 若手研究 (B) (17K14546) と基盤研究 (S) (26220801) 、JST CREST研究領域「二次元機能性原子・分子薄膜による革新的部素材・デバイスの創製と応用展開」 (JPMJCR15F2) の一環として行われ、その研究成果はドイツ化学会誌Angewandte Chemie International Editionに掲載。さらにオンライン版が2018年5月28日 (現地時間) に公開されている。
掲載論文
題目 : Multielectron-Transfer-based Rechargeable Energy Storage of Two-Dimensional Coordination
Frameworks with Non-Innocent Ligand
著者 : Keisuke Wada, Ken Sakaushi, Sono Sasaki, Hiroshi Nishihara
雑誌 : Angewandte Chemie International Edition
掲載日時 : 2018年5月28日 (現地時間)