東工大、高出力全固体電池で超高速充放電を実現


5 Vの全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現。14 mA/cm2の高い電流密度での超高速充放電が可能に

東京工業大学の一杉太郎教授らは、東北大学の河底秀幸助教、日本工業大学の白木將教授と共同で、高出力型全固体電池で低界面抵抗を実現し、超高速充放電の実証に成功した。

昨今、全固体電池の開発は世界中で競争となっている。特に通常のリチウムイオン電池より高い電圧を発生する高出力型全固体電池に注目が集まる。

東工大は予てから同校の菅野了次教授により、により、電解質に有機溶媒の液体が使われてきた現行のリチウムイオン電池を横目に、可燃性を有する液体ゆえの安全上の課題を解決するべく、電解質を有機溶媒から無機材料の固体材料に置き換えるべく30年以上に亘り開発を続けてきた。その東工大の総力で、ようやく全固体電池実用化への突破口が開かれつつある。

この高出力型全固体電池の実用化のために解決すべき課題の1つは、高電圧を発生する電極と固体電解質が形成する界面でのリチウムイオンの抵抗低減にあった。しかし界面抵抗低減についての明確な方策はなく、これまでその実現性は不明だった。

しかし東工大の同研究では、薄膜作製技術と超高真空プロセスを工夫して、高電圧を発生する電極材料Li(Ni0.5Mn1.5)O4を用い、固体電解質と電極との良好な界面を作製。

その結果、極めて低い界面抵抗を実現し、さらにその界面は大きな電流を流しても安定で超高速充電が可能であることが実証できている。

この成果は、高出力型全固体電池の実用化に向けて重要な一歩となるだけでなく、固体電解質と電極の界面に於けるイオン輸送の学理構築にもつながりると見られている。なおこの研究成果は8月1日(米国時間)に米国化学会誌「ACS Applied Materials and Interfaces」オンライン版に掲載されている。

界面形成直後に固体電解質から電極へのリチウムイオンが自発的に移動

自動車のみならず、モバイル機器の他、安定的な蓄電池の普及にあたり固体の電解質を用いる全固体電池は、高いエネルギー密度[用語1]と安全性を兼ね備えた究極の電池として、国内外で早期の実用化が期待されている。

特に、現在広く利用されている4 V程度の電圧を発生を生むLiCoO2系電極材料でなく、5 V程度のより高い電圧を発生する電極材料Li(Ni0.5Mn1.5)O4を用いた高出力型全固体電池は、国内外で大きく注目されており各国でも研究が活発化している。

しかし、Li(Ni0.5Mn1.5)O4を用いた高出力型全固体電池は、固体電解質と電極が形成する界面に於いて抵抗(界面抵抗)が高く、リチウムイオンの移動が制限されてしまうため、高速での充放電が困難だった。

一方で高速充放電が実現すれば、携帯電話やパソコンが数分で充電完了することも夢ではなくなる。ゆえに高出力型全固体電池の界面抵抗の低減、さらには高速充放電の実証は、喫緊の課題だった。

これらの要素や環境、情報を踏まえ同研究グループでは、薄膜作製技術と超高真空プロセスを活用し、Li(Ni0.5Mn1.5)O4エピタキシャル薄膜[用語2]を用いた理想的な全固体電池を作製した(図1)。

図1. 本研究で作製した全固体電池の概略図(左)と写真(右)

そして固体電解質と電極の界面におけるイオン伝導性を評価した結果、界面抵抗が7.6 Ωcm2という極めて低い値となることを見出した(図2)。

これは、従来の全固体電池での報告より2桁程度低く、液体電解質を用いた場合と比較しても1桁程度低い値で、この活性化エネルギーを見積もったところ超イオン伝導体[用語3]と同程度の低い値(0.3 eV程度)を示すことが判っている。

図2.本全固体電池の界面抵抗の測定結果(交流インピーダンス測定)。x軸が実部、y軸が虚部に対応する。赤の円弧の大きさから、界面抵抗の値を7.6 Ωcm2と見積もることができる。

このような低抵抗界面の安定性を探るため、同研究では大電流で充放電試験を行い、14 mA/cm2という大電流でも安定して高速充放電することに成功した。具体的には、100回の超高速充放電でも電池容量の変化は全く見られず、リチウムイオンの高速な移動に対して、固体電解質と電極の界面が安定であることを実証されている。(図3)

また、全固体電池の構造解析を行った結果、固体電解質と電極の界面を形成した直後に、固体電解質から電極へ、リチウムイオンが自発的に移動することも明らかになった。

図3. 全固体電池の超高速充放電試験の結果

今後の展開としては今成果を踏まえ、従来の4 V程度の発生電圧から5 Vへ、全固体電池を高出力化する道筋が見えてきている。併せて極めて低い界面抵抗を得ることができ、さらに超高速充放電への道が確立しつつあると云えるだろう。

このような高出力型全固体電池に於ける界面抵抗の低減や、高速充放電の実証は、全固体リチウム電池実用化の鍵であり、開発・製造・実運用を目指す上で大きな一歩となる。

また今回見出した固体電解質と電極の界面上のリチウムイオンの自発的な移動は、界面近傍でのイオン輸送についての学理を構築する上でも意義深いものだと云う。今後は、詳細な界面構造の解析により、さらなる電池特性の向上につながる界面設計指針の構築が期待されるとした。

最後に同研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業、トヨタ自動車株式会社、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製」の支援を受けて行われた。

用語説明
[用語1] エネルギー密度 : 電池から取り出すことのできるエネルギー量の値。単位体積や単位質量などで規格化される。

[用語2] エピタキシャル薄膜 : 基板となる結晶の上に成長させた薄膜で、下地の基板と薄膜の結晶方位が揃っているもの。良好な界面の作製によく用いられる。

[用語3] 超イオン伝導体 : 液体電解質と同等のイオン伝導度を有する固体電解質。リチウムイオンの場合、1 mScm-1程度の値が最高のイオン伝導率とされている。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials and Interfaces

論文タイトル :
Extremely low resistance of Li3PO4 electrolyte/Li(Ni0.5Mn1.5)O4 electrode interfaces

著者 :
Hideyuki Kawasoko, Susumu Shiraki, Toru Suzuki, Ryota Shimizu, and Taro Hitosugi

DOI :
10.1021/acsami.8b08506 outer