新型「カローラ」が9月17日に発売されて約2週間、そんな中、トヨタ自動車は報道陣を集めて試乗会を開催した。少しでも新型カローラの走りや質感を感じてもらい、その良さを体験してもらおうということだが、その開発にはさまざまな悩みや苦労があったそうだ。(経済ジャーナリスト・山田清志)
高齢化が進むカローラユーザー
「発売してからまだ2週間なので、従来通り、カローラからカローラへ乗り換えるお客が多い。ただ、店頭には若い人を含めていろいろな年代のお客が来ている」
こう話すのは開発責任者の上田泰史チーフエンジニアだ。1966年に初代が登場してから今回で12代目を数えるカローラは「日本のカローラとして原点に立ち返って開発した」という。
カローラは現在、世界15拠点で生産され、150カ国以上で年間約150万台が販売されているグローバルカーとなっている。累計販売台数は4750万台。その大きさや外観、仕様はその国のニーズに合わせてさまざまなタイプが存在する。
日本では“大衆車”というイメージだが、東南アジアや南米などでは“高級車”と見られ、特にブラジルではメルセデスベンツと比較される高級車として扱われているそうだ。
そのため、カローラの位置づけがトヨタの中で難しくなってきた。日本市場に合わせればグローバル市場から小さすぎになり、米国市場に合わせれば日本市場では大きすぎる。そしてもう一つ、日本市場では大きな問題を抱えていた。それはユーザーの高齢化だ。
先代のカローラは、ユニバーサルデザインを基軸に5ナンバーサイズにし、そのサイズとしては最大の空間と乗り降りしやすいように最大寸法にした。そして、ユーザーの若返りを狙った。ところが、セダン購入者の平均年齢が70代、ワゴンが60代という結果だった。
思い切って変えないと生き残れない
「思い切って変えていかないと、次の50年生き残っていけない。引き継いでいくものは何なのか。変えていくところはどこなのか」――カローラの開発陣は検討を重ねたという。
そして出した答えが、初代を出した時のコンセプトだった。良品廉価で、走りに余裕があるスポーティなクルマ。少し先を行く1ランク上のクルマで安心して乗れるクルマだ。「11代目はスポーツの“ス”の字もなかった。しかも魅力が少しずつ落ちていった」と開発陣の1人は振り返る。
そこで、新型カローラはそれまで採用していた「ヴィッツ」のプラットフォームから一回り大きいグローバルモデルのプラットフォームに変更し、3ナンバー化した。ただ、大きさはグローバルモデルに比べて、セダンは135mm短く、ワゴンは155mm短い。全幅もセダンは35mm狭く、ワゴンは45mm狭い。ホイールベースも60mm短い。
「日本での使い勝手を考慮し、日本にジャストフィットな車両パッケージを同時に開発、採用した。そして、TNGAプラットフォームを採用することで、低重心でスポーティなスタイリング、走る楽しさと取り回しの良さを両立させた。欧州の競合車には決して負けない」と上田チーフエンジニアは強調する。その開発ではテストコースの駐車場をグルグルと回って、乗り心地や運転のしやすさを確かめたそうだ。
もちろん新型カローラは走りだけでなく、安全装備も充実している。自転車や夜間の歩行者検知が可能な、最新の予防安全パッケージ「トヨタセーフティセンス」を標準装備。そのほか、駐車場など低速時に壁や車両を検知して衝突被害の軽減に寄与するインテリジェントクリアランスソナーや、後方から接近してくる車両を検知して衝突被害軽減に寄与するリアクロストラフィックオートブレーキもオプション設定できるようにした。
コネクティッド機能についても、国内トヨタブランドとして初めてディスプレイオーディオを全車標準装備。スマートフォンとの連携が可能になり、日常利用している地図アプリや音楽などをディスプレイで操作することが可能になった。
「新型カローラではもう少しユーザーを若返らせるため、ターゲットユーザーを30代に設定した。その世代を中心に幅広いお客さまに乗ってもらいたい」と上田チーフエンジニアは話す。
誕生から53年を経過したカローラは大きな岐路に立たされているといっていいだろう。果たしてトヨタの目論見通りユーザーの若返りを実現できるのか、新型カローラの今後の動向には目が離せない。(姉妹サイト「NEXT MOBILITY 」より転載)
山田清志
経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。