独製鉄・機械大手のティッセンクルップAG、事業分割の検討に入る


独の鉄鋼・工業製品メーカー大手で、ドイツ株価指数に組み入れられているティッセンクルップAG (本社:独ノルトライン=ヴェストファーレン州エッセン)は、独時間の9月27日、コングロマリット企業としての旗を降ろし、自らの事業分割を行う検討に入った。

具体的には自社をふたつの事業会社に分割する。同社はこれまで重厚長大の製鉄企業とししての一面に加え、ステアリングやサスペンションなどの自動車部品、さらにエレベーターや家庭用昇降機などの産業機械分野の事業を抱えていたのだが、この製鉄事業とそれ以外の事業が分離独立する形だ。

実施は、来る2019年秋から翌2020年の春に掛けてを計画中。企業分割はスピンオフを通じて行われ、両社は共にロンドン・フランクフルト証券取引所への上場を維持していく予定。

また既存の旧銘柄への投資家に対しては両社の株を分配するとしている。これにより、これまでは異なる市場で多角的な事業拡大を行ってきた取り組みを改め、それぞれが投資効率を高めて、さらなる企業価値の向上を目指していく構えだ。

ちなみに売上高180億ユーロ(およそ2兆4千億円)の製鉄部門は、「ティッセンクルップ・マテリアルズ」としてインドのタタ製鉄の欧州事業との統合をさらに推し進めて(欧州タタ製鉄との統合事業計画では、当地・欧州最大手のアルセロール・ミタルを追撃する同業界2位の鉄鋼グループを目指す)国際的な立ち位置の強化を図っていく。

同事業では日本企業とのつながりも強く、去る2002年にJFEスチール、川崎製鉄、日本鋼管と提携。共通規格商品の生産で国際商品の強化を図ってきた。

対して160億ユーロ(およそ2兆1千億円)の事業規模を背景に、自動車部品や昇降機を事業の柱としてきた製造系部門は、今後「ティッセンクルップ・インダストリアルズ」と名乗ることとなる。なおこちらは日本国内市場で一般消費層にも浸透しているビルシュタインブランドを配する事業部門として良く知られている。

事業分割の理由は、同社創業の原点ともいえる製鉄事業に加え、近年はカーボンコンポジット製品などの先端製品の開発を行うテクノロジーメーカーとしての側面があり、これが投資家達にとって複雑に映り、複数の業界に跨がる事業構造が業績の足かせになっているとの意見があった。

その他、前CEOのハインリヒ・ヒージンガー氏の電撃辞任や監査役会会長のウルリッヒ・レーナー氏の辞職の他、昨年来よりスポークス活動に於いても、事業拡張の戦略構築で経営上の混乱が見られていた。

なお現行の旧社となるティッセンクルップAGは、ドイツ製鉄業の中心地であるドイツ・エッセンに本社を構え、1811年創業のクルップと1867年創業のティッセンが1999年に合併して誕生したドイツ製鉄業界最大の企業である。

現在時点では、世界約80カ国に拠点を持ち、2014-2015年度の売上高は428億ユーロ(およそ5兆6千億円)、同時点では従業員数154,906人を配していた多国籍企業であり、日本でも東京都・羽咋市・豊田市・広島市・北九州市に拠点を持っている。

元来、企業設立の経緯から鋼材を中核とした素材開発に強みを持つ産業グループであったのだが、昨今は新たな事業の地平を目指し、自動車や機械工学、産業用のハイテク部品の開発・生産に注力してきた。

自動車業界では、カムシャフト、シリンダーヘッドモジュール、クランクシャフト、ステアリング、ダンピングシステムなどの他、鋼材開発分野に於けるマテリアル領域で存在感を示していた他、鍛造並びに冷間鍛造プロセス技術の開発でも世界の自動車バリューチェーン全体で、一定の役割と立ち位置をその歴史の中に印してきた。

最近の動きでは、先の2018年3月2日に約1億ユーロを投資し、東欧ハンガリーにドイツ国内および海外向けの自動車OEMの電動パワーアシストステアリングシステム とバルブトレインシステム部品の製造拠点の稼働を開始。今や欧州自動車産業の主要プレイヤーに成長した当地で、スプリングやスタビライザーの製造拠点として新たな別工場も建設中であるとしていた。