HEREのエザード・オーバーベック氏。同社CEOとしての初来日で、日本のパイオニアと共同記者会見を実施
パイオニア株式会社(本社:東京都文京区、代表取締役 兼 社長執行役員:小谷 進、以下、「パイオニア」)と、地図および位置情報サービスのグローバルプロバイダーであるHERE Technologies (HERE International B.V.、本社:オランダ・アムステルダム、CEO:Edzard Overbeek「エザード・オーバーベック」、以下「HERE」)は9月19日、業務提携および資本提携で合意した。
今回の双方の資本提携の具体的内容について、都内で記者会見を行ったパイオニアとHEREは、株式を相互に保有することにより、互いの業務提携をより確実に、かつより早く進めて行けるようになると述べた。
HEREとパイオニア、双方で互いに発行株式を取得し、両社の技術連携を深める
その資本提携のかたちは、HEREがパイオニアの新規に発行する普通株式 11,117,500株(本日現在の発行済株式総数に対する割合:約3%)を総額 17,343,300ユーロで取得。
一方パイオニアは、AUDI AG、BMW Group、Daimler AGによる持株会社である There Holding B.V.より、同社が保有するHEREの株式(本日現在の発行済株式総数に対する割合:1%未満)をHEREが取得する株式と同額分取得するもの。
都合、双方の出資額は互いに日本円で約22億円となり、両取引のクロージング日は、2017年10月5日を予定している。
なお結果的にHEREがパイオニア株式の3%を取得する一方、パイオニアが取得するHERE株式が1%未満と少ないことについて、パイオニア小谷社長は、「出資比率自体には全くこだわっていない。
今出資の意味するものは、双方による比率のバランスではない。互いの連携が既存の業務提携内に留まったままであると、機密保持契約などの手続きが煩雑になり、両社の開発過程で無駄な時間を消費する。
しかしこれが、互いに出資し合う資本提携に移行することで、双方の機密情報に触れ易くなる。これによって双方の開発スピードが加速化されることが狙いだ」と語っている。
両社は互いの立ち位置を着実に確かめつつ、国際市場に向けて戦略的な開発・実証に挑戦していく
ちなみに両社は、2015年9月に端を発する共同での自動運転・高度運転支援向け高度化地図活用の協議を皮切りに、それぞれの保有技術の活用について永らく協議してきた。
その流れは翌年2016年5月11日になって、さらに具体化。自動運転向け地図データの効率的な更新・運用を可能にする“データエコシステム”の開発で、パイオニアが開発した「3D-LiDAR」センサーを活用する実証実験に合意した。
さらに約半年後の2017年2月8日には、グローバルな地図ソリューションと自動車業界との組み合わせなど、自動車業界外の次世代位置情報サービスに関しても戦略的提携を進めていくことで合意。
パイオニアの子会社で、地図事業を担うインクリメントPとの事業連携もさらに深化させていく
この事業連携はパイオニアの子会社で、地図事業を担うインクリメント・ピー株式会社(本社:東京都文京区、社長:神宮司 巧、以下「インクリメントP」)との連携にも及び、2017年6月26日にHEREは、インクリメント・ピーとも自動運転時代に向けたグローバルな地図ソリューションの実現を目的とした基本契約を締結している。
こうした一連の動きを踏まえ、今回、3社はドライバーの安全性を高めることを目的としたテレマティクス保険市場向けに、地図データを活用した事故リスク予測プラットフォームを提供するADASソリューションの開発にも進展。
そして遂に両者の業務提携が、より確実に進むため、互いの資本提携について合意に至ったという流れがある。
3社が目指す戦略。そして個々事業を背景とした、より詳細な業務・資本提携の内容は以下の通り
そうしたなか、まず「HERE」と「インクリメントP」の関係だが、この領域では相互のデジタル地図データについて、グローバル協業をより加速させていく意向であると云う。
その証として両社は、共通フォーマットを下敷きに互いに一貫性を持つ、グローバルデジタル地図データの開発・供給を視野に据えている。
そして、こうして各々が保有・磨いてきたデジタル地図データを、自動車外の商品展開やサービス分野にも活かして行くことを目指す。
加えて両社は、自動運転時代を迎えた同業界に向けて、要となる高精度地図の共用化に向けても評価検証を開始する。
より直近では、自動運転車両を開発する自動車系メーカー向けに、国際環境下で一貫性を持つ高精度地図データの提供を目指すとしている。
双方が地図を供給している地域を棲み分けつつ、両社のメリットが活かせることを積極的に模索していく考え
併せてインクリメントPは、出資者として日本で高精度地図の協調基盤を持つダイナミックマップ基盤株式会社の活動と連携。高精度地図制作協業に向け議論を開始する。
結果、HEREとインクリメントPの両社は、双方が地図を供給している地域を棲み分けつつ、両社のメリットが活かせる協業の可能性を積極的に模索していく考えだ。
一方、パイオニアとHEREの関係では、両社の技術を活用したADASソリューションの開発について具体的な協業を進める。
パイオニアの「3D-LiDAR」センサー技術が、HEREとの関係強化を切り拓いていく鍵となった
これは地図や位置情報技術を基に、得られた自動車の速度や交通情報・天候・災害情報等からドライブ時の事故リスクを予測するソリューション「テレマティクス保険」の開発である。
これを双方に於いて、保険業界を最初のターゲットに据えて、より優れた製品開発を進めていく構えだ。
具体的には、パイオニアが東京海上に提供しているIoTデバイスを介した事故リスク予測サービス『インテリジェントパイロット』がそれにあたる。
これを今後は、HEREの地図並びにクラウドサービスを介して欧州にも展開する。トライアルプログラムの実施を経て、来る2018年の商用化を目指すと云う。
最後に今回、HEREがパイオニアと資本提携で合意に至った最も大きな理由のひとつにあたるのが、パイオニアが開発中の「3D-LiDAR」センサー技術である。
そこで両社は、同技術を背景に自動運転用地図の更新・運用を行う“データエコシステム”の開発検討を積極的に協議していく。
加えてその他、例えばドローンの運用環境など自動車外向けに於いても、パイオニアの市販用デバイスから収集したデータをHEREの位置情報サービスへ活用していく検討も行う。
ちなみに、今回の3社による戦略発表は、「地図情報の上で、パートナーの参加を呼び掛け、それを介して自身の地図機能を進化させていく」Googleのクローズド戦略とは立ち位置が異なる。
HEREとパイオニアが採る戦略は、「パートナーが参加するプラットフォームの上で、共に多彩なサービスを広げていく」と云ういわばオープンな環境だ。
今後やってくる未来に於いて、いずれ2050年には全世界の人口は100億人に到達し、クラウドに接続される端末は230億台。
コネクテッドカーも2億5000万台に膨れあがり、データ転送の速度は50倍以上に到達。クラウド上を飛び交うデータ量も大きく急増していく。
そうした時、幅広い業界に対して対応できるオープンなパートナーシップが最も重要であるとHERE・エザード・オーバーベックCEOは結んでいた。