横浜ゴム株式会社(本社:東京都港区新橋、代表取締役社長:野地彦旬、以下、横浜ゴム)は、今年10月、ゴム材料の多目的設計探査シミュレーション技術を開発した。
本技術はゴム材料設計において従来にない革新的な発想を得るために開発したもので、例えば、低燃費性能と安全性能、超軽量と高剛性など背反性能を高次元で両立した高性能タイヤを新しいアプローチで開発することを目指している。
同社はこれまでにも空力シミュレーションや流体音響シミュレーションなど新発想を得るための技術開発に取り組んでおり、タイヤ周辺の空気の流れをコントロールして燃費向上に貢献するディンプルデザインやフィン付きタイヤなどを発表している。
タイヤの性能にはゴム材料となるポリマー(ゴム)とフィラー(カーボンブラックやシリカなどの微粒子)の複雑な微細構造(分散状態や分量など)が大きく影響する。
そこで今回開発した技術では、実際のゴム材料を使う従来のシミュレーションと違い、仮想的な微細構造を有したゴム材料のモデル化を実現し、微細構造を自在にコントロールできるシミュレーションを可能とした。
微細構造のパラメータ(変数)を変化させることで様々な微細構造を有する約10億要素の超大規模なシミュレーションモデルを得ることができる。
また、東京工業大学のスーパーコンピュータ「TSUBAME2.5」による性能評価において、従来の有限要素法では計算できなかった約10億要素からなる超大規模計算をわずか75分で終了できることを確認した。
技術確立にあたっては微細構造を自在にコントロールできるモデリング技術とゴム材料の力学特性を計算する大規模な粘弾性シミュレーション技術が課題となった。課題解決のため、フランスのMINES ParisTech/Centre de Morphologie Mathematique(CMM)のDominique Jeulin(ドミニク・ジュラン)教授らと共同研究を行い、ランダム・モルフォロジカル・モデルというモデリング技術と大規模粘弾性シミュレーションのための新しい計算手法を開発。
これにより、横浜ゴム独自のゴム材料の多目的設計探査シミュレーション技術が完成した。
多目的設計探査は設計に役立つ知見を導き出す設計手法で、生物の進化過程に着目し、より最適な答えを導き出す多目的遺伝的アルゴリズムを活用したもの。
横浜ゴムはすでにタイヤの構造設計で多目的設計探査を活用し、国内タイヤラベリング制度で最高グレードの転がり抵抗性能:AAA、ウェットグリップ性能:aを獲得したフラッグシップ低燃費タイヤ「BluEarth-1 EF20」を開発するなど有用な成果を得ている。
<ゴム材料の多目的設計探査シミュレーション技術の全体像と仮想的なゴム材料モデル例>
ゴム材料の多目的設計探査シミュレーション技術は、(1)ゴム材料の微細構造をコントロールする微細構造モデリング、(2)仮想ゴム材料の力学特性を算出する粘弾性シミュレーション、(3)力学特性を改善するための進化計算、(4)進化計算で得られるビッグデータから材料開発に役立つ情報を抽出するデータ分析(データマイニング)の4つのモジュールで構成される。
<微細構造モデリングモジュールで作成したゴム材料モデル例>
微細構造のパラメータを変化させることで様々な微細構造を有する仮想ゴム材料モデルを作成できる。