ソフトバンクGの2020年3月期連結決算、9615億円の最終赤字


ソフトバンクグループ(SBG)が5月18日に発表した2020年3月期連結決算は、携帯電話事業が堅調に業績を伸ばしたが、投資ファンド事業が大きく足を引っ張り、巨額の赤字に転落した。売上高が前期比1.5%増の6兆1850億円だったが、本業の儲けを示す営業損益は1兆3646億円の赤字、純損益は9615億円の赤字だった。いずれも15年ぶりの赤字で、赤字幅もSBGとしては過去最大だ。(経済ジャーナリスト・山田清志)

2020年度はゼロ配当の可能性も

「1929年に世界恐慌があり、ダウ平均株価は10分の1に下落した。株価が戻るのに25年かかった。新型コロナウイルスの感染拡大はこれと同じような世界に大きな影響を与える出来事だったのではないか」

孫正義会長兼社長はオンラインの記者会見で新型コロナの影響についてこう述べ、「コロナ危機の中でより安全運転をする」と強調した。そして配当政策についても安全運転に徹するそうで、2020年度は「ゼロ配当もあり得る」と付け加えた。

SBGは成長が見込める未上場企業に資金を投じ、上場後に利益を回収する投資に力を入れてきた。2017年に立ち上げた「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」では、世界中の投資家から集めた約10兆円の資金をユニコーンと呼ばれる有望企業に投じた。その数は88社にのぼる。

ところが昨夏に米シェアオフィス「ウィーワーク」で乱脈経営が発覚して株式の上場が頓挫し、今年に入ってからは新型コロナの影響で投資先の経営が一気に悪化してしまった。その結果、投資先の企業価値が大幅に目減りして営業損失が1兆9313億円となり、第4四半期(1~3月期)の最終損益が1兆4381億円の赤字になってしまった。

携帯電話事業が過去最高の利益を出したのに、ファンドの損失がそれを吹き飛ばしたわけだ。ちなみにその金額は四半期の赤字額では、東日本大震災時の東京電力ホールディングス(11年1~3月期1兆3872億円の赤字)を超えて過去最大だった。

「投資先のユニコーンも大きく苦戦している。資金繰りについても大変苦しい状況でフリーキャッシュフローの赤字が続いている。絵にすると、上り坂を登っていたユニコーンにコロナの谷がやってきた。そのころなの谷にユニコーンが落馬しているよう状況で大変な危機だ」と孫社長は話し、こう付け加えた。

「88社の中で15社ぐらいは倒産するんじゃないかと思っている。15社くらいは飛んで行って大きく成功すると見ていて、残りはまあまあの状況ということになるのではないか。飛んで行った15社が5年後、10年後にわれわれの投資価値の90%ぐらいになるのではないか。ネットバブルが崩壊したときも、アリババ、ヤフーなどほんの一部の会社が後の90%を生み出した」

しかし、SBGの経営を不安視する声も市場では出ており、今後4.5兆円の資産売却を進め、株価を維持するために2.5兆円の自社株買いや負債の削減、手元資金の拡充を行っていく予定だ。そんなこともあり、20年度の配当方針は「未定」、そして「ゼロ配当あり得る」としたわけだ。

「私は投資家として長い人生を送ってきた。ネットバブルの後は体が半分以上崖の外に落ちそうな状態で、指2本で体を支えている危機感だった。リーマンショックの時は腕1本で支えている感じ。今回は世界的危機だけど、4.5兆円の現金が確実に手に入る状態なので、余裕で崖の下を覗いている状態ではないか」と、孫社長は巨額の赤字を計上しても強気の姿勢を崩していない。

山田清志
経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。