全長5.66m。充分な浮力を有するFRP製のハルの周囲には、接岸時のクッション性と静止時の安定性を高めるD型チューブが取り付けられ、新開発の船型はマリンジェット専用エンジンと救助艇用に改良したジェット推進機との組み合わせにより、機動力に富み、波に強い走行性能を発揮する。
こうした救難艇として独自の機能を備えたヤマハ発動機株式会社(本社:静岡県磐田市、社長:柳弘之、以下、ヤマハ発動機)の「ジェット救難艇」は、3月に開催されたボートショーに参考出品して以降、ここに来て関係各所から注目されている。
今年の11月に発売30周年を迎える水上オートバイ「マリンジェット」は、当初より海難救助やパトロールのツールとして注目され、国内外において納入実績を築いてきた。
この「ジェット救難艇」はそうしたジェット推進機の特性を生かした海難救助に特化したボートとして開発されたもの。
FRPを傷つけることなく容易に接岸することのできるリブボート(FRPとチューブを組み合わせたボート)は、世界で多くの救助艇に採用されてきた。
またジェット推進機を利用した救難艇も従来から存在する。しかし、その多くが自動車エンジンをベースとしており、ボートも大型で、このように機動力に富んだコンパクトサイズ、かつマリン専用エンジンを搭載している救難艇は珍しいケースとなった。
船体を横から見ると、ハルのステム(船首)が水面に対してほぼ直角であることが解る。また、船底のV角度はかなり浅め。そして、この独自の船型が、その場回頭もできる機敏性を実現、加えて新設計のリバースバケットとノズルディフレクターとの組み合わせにより、後進時でもスラローム走行ができるほどの高度な操船性を実現した。
同社ボート事業部WV開発グループ・芝山晋氏によると「自分が福島の出身だったこともあり、震災を経て、もっと直接的に貢献できることはなかったかと顧みました。
そして実際に水上オートバイが救助に役立った話なども聞き、専用のジェット救難艇を開発するに至りました。
このモデルは万が一転覆しても船を引き起こせばすぐにエンジンの再始動をすることができます。また、ジェットの機動性を生かしたスケールながら6名の定員を確保し、水上オートバイでは困難だった一度に複数名の救助を可能にしています」と語る。
開発に当たっては、豊富な経験を持つベテラン社員やOBまでもが通常の仕事の合間を縫って実験に加わったという。
また、人命救助に使命感を持つ団体などからも実証試験などで大きな協力を得ている。「ジェット救難艇」は「海難による怪我や人命の損失を少しでも減らしたい」という、多くの人々の願いが形になった救難艇といえそうだ。