IBMとAMD
は9月5日、「量子を中心としたスーパーコンピューティング(quantum-centric supercomputing, QCSC)」として知られる量子コンピューターとハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)を組み合わせた次世代コンピューティング・アーキテクチャーの開発計画を発表した。
両社は、 IBMが誇る世界最高性能の量子コンピューターと量子ソフトウェア、そしてAMDのHPCおよびAIアクセラレーター分野でのリーダーシップを活かしながら、拡張性の高いオープンソース・プラットフォームの開発に向けて協業していく。
量子コンピューティングは、情報の表現及び処理に於いて従来のコンピューターとは全く異なるアプローチをとる技術だ。従来のコンピューターが0か1のいずれかの状態しか取れないビットを用いるのに対し、量子コンピューターは量子力学の法則に従う量子ビット(qubits)を使って情報を表現する。
こうした特性により、古典コンピューティングでは解くことが困難な複雑な問題にも対応可能となり、遙かに広大な計算空間を活用できるようになる。なお、これには創薬、材料検索、最適化、ロジスティクスといった分野が含まれる。
この協業発表に際してIBM会長兼最高経営責任者(CEO)のアービンド・クリシュナ氏(Arvind Krishna)は、「量子コンピューティングは、自然界をシミュレーションし、情報を全く新しい方法で表現する技術です。IBMの量子コンピューターと、AMDの先進的なHPC技術が連携することで、古典コンピューティングの限界を超える強力なハイブリッド・モデルを構築していきます」と述べた。
対してAMDの会長兼CEOのリサ・スー氏(Lisa Su)は、「HPCは、世界が直面する最も重要な課題の解決を支える基盤です。IBMとの協業を通じて、HPCと量子技術の融合に取り組むことで、発見とイノベーションを加速できる大きな可能性が見えてきています。
量子を中心としたスーパーコンピューティングのアーキテクチャーでは、量子コンピューターが、CPU、GPU、その他の演算エンジンによって支えられるHPCおよびAIインフラと連携して動作します。
このハイブリッドなアプローチでは、課題の各構成要素に対して、最も適した計算パラダイムを適用することで、より効率的な問題解決を可能にします。
例えば、将来的には、量子コンピューターが原子や分子の挙動をシミュレートし、AIによって強化された古典スーパーコンピューターが膨大なデータ解析を担うといった協調処理が実現されるでしょう。こうした技術の融合により、これまでにないスピードと規模で、現実世界の複雑な課題に挑むことが可能になります」と語った。
そんなAMDとIBMは現在、AMDのCPU、GPU、FPGAをIBMの量子コンピューターと統合し、これまで単独の計算パラダイムでは実現が困難だった新しいタイプのアルゴリズムを効率的に加速する方法を共同で模索している最中にある。
この取り組みは、IBMが2020年代末までの実現を目指す「フォールト・トレラント量子コンピューター (fault-tolerant quantum computer、FTQC) 」の開発に貢献する可能性も秘めている。また、AMDのテクノロジーは、フォールト・トレラント量子コンピューティングの重要な要素である「リアルタイムのエラー訂正機能」の実現においても有望視されている。
両社のチームは、IBMの量子コンピューターとAMDの技術を連携させ、量子と古典のハイブリッドなワークフローを実行する初期デモンストレーションを、年内に実施する予定だ。
また「Qiskit」のようなオープンソース・エコシステムを活用することで、量子を中心としたスーパーコンピューティングを活かした新しいアルゴリズムの開発と普及を加速できるかどうかについても、今後検討を進めていきたい考えだ。
実際IBMはすでに、量子コンピューティングと古典コンピューティングをシームレスに融合するというビジョンに向けた第一歩を踏み出している。
例えば、理化学研究所との連携により、IBMのモジュール型量子コンピューター「IBM Quantum System Two 」と、世界有数の性能を誇る古典スーパーコンピューター「富岳」を直接接続して運用する取り組みを開始。
更にCleveland Clinic、バスク州政府、Lockheed Martin社といった業界リーダーとの協業を通じて、量子リソースと古典リソースを組み合わせることで、古典コンピューター単独では対応が難しい複雑な問題に対しても、有益な成果が得られる可能性があることを実証している。
ちなみに、米国エネルギー省オークリッジ国立研究所の「Frontier」は、史上初めてエクサスケールの壁を公式に突破したスーパーコンピューターであり、AMDのCPUおよびGPUがその性能を支えている。
現在では、Lawrence Livermore National Laboratory(ローレンス リバモア国立研究所)の「El Capitan」にも、AMD EPYC™ プロセッサーとAMD Instinct™ GPU技術が採用されており、TOP500リストに基づけば、AMDは世界最速のスーパーコンピューター2機を駆動する唯一のプロバイダーとなっている。
更にAMDはHPCを超えて、グローバル企業やクラウドサービス・プロバイダーによる生成AIソリューションの数々にも、CPU、GPU、オープンソース・ソフトウェアを通じて貢献していると結んでいる。