昭和シェル、食糧由来ではないバイオマス液体燃料の独自製造を目指す


新液体燃料は、次世代バイオガソリン及びジェット燃料製造へ

昭和シェル石油株式会社(本社:東京都港区台場2-3-2 代表取締役社長 グループCEO:亀岡剛)は、東北大学大学院工学研究科冨重圭一教授の研究グループと共同研究を行い、食糧と競合しないバイオマス原料から、ガソリン基材として利用可能なヘキセンの生成に成功した。

このヘキセンというのは、C6H12の分子式を持つ鎖式炭化水素のこと。消防法による第4類危険物 第1石油類に該当する。同社は、このヘキセンの生成技術を2025年までに確立する事により、地球温暖化対策への貢献を目指す構え。

目下、世界では持続可能な社会の構築に向け、二酸化炭素削減の議論が進められており、そうしたなかバイオ燃料は、原料となるバイオが生涯に於いて排出する酸素の影響で、理論的には燃焼しても大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない(カーボンニュートラル)とされている。

これを踏まえ昭和シェル石油は、エネルギー会社としての未来を見据え、食糧と競合しない草本系及び木質系バイオマスを原料としたヘキセンから、次世代バイオ燃料を製造するため、触媒の開発を東北大学と共同で行ってきた。

今回バイオマス原料から生成するヘキセンは、ジェット燃料相当の炭化水素に変換(ヘキセンを酸触媒により二量化後、残された二重結合を水素化反応させる変換法を用いる)可能な事から、同分野の燃料基材の製造に展開していく予定。

ちなみに「1-ヘキセン(1-Hexene)」をモデル化合物としたジェット燃料の生成については同社が、先の11月16日に開催された第47回石油・石油化学討論会にて発表済みであったもの。

その抽出工程は、食糧と競合しないバイオマス由来のセルロース、もしくはそれらを糖化/水素化処理して得られるソルビトールを原料とするもの。

これを元に東北大学が開発したIr-ReOx/SiO2触媒、もしくは東北大学との共同研究により開発したPt-Ir-ReOx/SiO2触媒を用いて、原料中のC-O結合を選択的に水素を用いて分解して、ヘキサノールを製造する。

この生成したヘキサノールを、H-ZSM-5触媒を用いて脱水反応させる事により、ガソリン基材として利用可能なヘキセンが得られる仕組みだ。

さらに、共同研究により開発したPt-Ir-ReOx/SiO2触媒は、原料のソルビトールから直接水素を取り出しての利用も可能だと云う。

同社は、反応に用いる水素に於いて、ソルビトール由来の水素を一部使用して、天然ガスなどの化石燃料から製造されるGHG排出量の多い水素の使用量を減らす事で、従来の石油由来のガソリンに対してGHG削減効果が50%以上のバイオ燃料を生み出す研究開発に取り組んでいる。

また現段階の研究成果では、ラボレベルでの実験でセルロース(0.5g)を原料に、Ir-ReOx/SiO2触媒にてヘキサノールの生成(収率60%・※1)に成功している。

(※1)Liu, S.; Okuyama, Y.; Tamura, M.; Nakagawa, Y.; Imai, A.; Tomishige, K., Production of Renewable Hexanols from Mechanocatalytically Depolymerized Cellulose by using Ir-ReOx/SiO2 Catalyst, ChemSusChem, 2015, 8 (4), 628-635; DOI:10.1002/cssc.201403010.

加えて、H-ZSM-5触媒を用いてヘキサノール(ルロースから生成したヘキサノールの3つの異性体の存在比で調整したモデル化合物を使用)の脱水反応によるヘキセンの生成(収率79.8%・※2)にも成功した。

(※2)Okuyama, Y.; Koike, M.; Sasaki, S.; Liu, S.; Tamura, M.; Nakagawa, Y.; Imai, A.; Tomishige, K., Production of Cellulose-derived Olefins and Applicability to Gasoline, J. Jpn. Petrol. Inst., 2016, 59 (5), 228-234, DOI: http://doi.org/10.1627/jpi.59.228.

ヘキセンは、そもそも石油由来のガソリン中に存在する成分であり、今回生成したヘキセンに関して昭和シェル石油では、夏季及び冬季の代表的なガソリンへの混合可能量をJIS規格に照らして調査し、夏季及び冬季でそれぞれ、約22vol%及び約7vol%が混合可能である事を確認していると云う。

日本ではバイオエタノールのガソリンへの混合率は、JIS規格で3vol%が上限(E10対応ガソリン車は10vol%)となっているため、バイオエタノールに比べ、より多くガソリンに混合できるという利点があるとする。

今後について昭和シェル石油では、現在ラボレベルにて本触媒変換技術のプロセスを開発中だ。今後は段階的なスケールアップを経て、2025年までに技術を確立する事により、持続可能な社会の実現を目指すと結んでいる。