ZF、過酷なモータースポーツシーンで勝ちを狙えるAT開発に成功


ATがモータースポーツシーンで新たな歴史を切り拓く

ZFことゼット・エフ・フリードリヒスハーフェン社(本社:本社:独バーデン・ヴュルテンベルク州フリードリヒスハーフェン、CEO:シュテファン・ゾンマー、以下、ZF)が開発してきた「8HP」型オートマチック・トランスミッション(AT)は、2014年シーズン以降、「BMW M235i Racingカップ」(ワンメイクレース)の実戦環境で持てる潜在能力を着実に積み重ねてきた。

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そうしたチャレンジの連続を踏まえてZFは、次なる進化の形として、このほど新たな「8P45R」型モータースポーツ向けトランスミッションを発表。大きく性能向上が図られた超軽量設計の同ATは、先の10月末、ニュルブルクリンクで開催されたVLNレースでデビューを果たした。

既存の量産向けATでの壁を打ち破った「8HP」「8P45R」

そもそも「8HP」「8P45R」登場以前、ATは、モータースポーツには適さない機構と考えられてきた。しかしZFは、2014年シーズンに、この認識の壁を打開するべく新ソリューションのための道を切り開いてきた。

というのは、この「8HP」ATを搭載することによって「BMW M235i Racingカップ」に参戦するドライバーは、周囲の状況とトラックに、ほぼすべての集中力を注げるようになったのである。

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シフト・ミスによるメカニカル・ダメージや、ドライブ・シャフトに対する致命的な損傷および、アンバランスな挙動を誘発する様なシフト・ショックも回避することができるその優位点は、「レースに不向き」という既存のステレオタイプの考え方を跳ね返したのだ。

しかしそれは、単純にATゆえのイージーさを発揮したという訳ではない。と言うのは「8P45R」以前のレース向けATの場合、その多くは標準的な量産車向けのトランスミッションの設計思想をベースに、ソフトウェア領域に修正を加えて用いられてきたに過ぎなかったからである。

勝ちを狙うために生み出された独自の遊星(プラネタリ)機構

対してZFは、純粋なモータースポーツ向け遊星(プラネタリ)を備えた独自のトランスミッション構造に着目、その可能性に着目し、未来のモータースポーツの姿を追い求めている。

同社が新設計の末完成させた新構想のATは、レシオ、シフト・ポイント、シフト・スピードに関して、モータースポーツでの厳しい要求に妥協なく対応できる様、大きな性能向上が図られている。

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また、コンバーターの廃止をはじめとするさまざまな軽量化手法により、ユニット重量も約15%軽減された。併せて内部の電力損失も低減されている。

その基本設計と構造(4つの遊星ギア・セットと5つのシフト・エレメントで構成)は、以前の「8HP」トランスミッションからそのまま引き継がれている。

ATでありながら、コンバーターを廃止するという着眼点

但し「8P45R」には、新しい特徴が1つある。それはトランスミッション内のコンバーターの廃止である。

スタート時は内部のシフト・エレメントによって実行され、トランスミッション・インプットの上流側に位置する振動ダンパーが、エンジン振動によるダメージを防ぐ。

加えてギア・レシオの間隔も狭くなっており、ギア間の回転数の減少も抑えた。その結果、以前の「8HP」トランスミッションでは、レースの際には通常、1~6速のギアのみが使用されていたものが、新しいトランスミッションでは、8速までのギアすべてが動作レンジ内に適切に配置されるようになった。

レース用トランスミッション開発の新たなベンチマークへ

2015年シーズンを通し、新しいギアボックスはダイナモ・テストなどのテスト・プログラムも行われ、この秋の10月末には、BMW M235i Racingに搭載して、ニュルブルクリンク北コースにおける耐久テストも敢行している。

BMWモータースポーツ・ジュニア・プログラムのチーフ・インストラクターであるダーク・アドルフ氏は新型ATに関して、「新しいギアボックスを最初に試した時から、ZFのパフォーマンスには本当に魅了されました。

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自動車技術者である私自身も、トルク・コンバーターなしでオートマチック・トランスミッションを構築できるとは思っていませんでした。

ZFのトランスミッションによって、高速でのギア・チェンジと、容易で快適な始動が可能になりました。

クラッチ・エレメントも、きめ細かく調整されています。このシステムは、レース用ギアボックスやトランスミッション開発のベンチマークになると確信しています」と語っている。

ZFは、2016年第2四半期に、この8P45Rトランスミッションの市場投入を予定している。当初はBMW M235i Racingにのみ提供されるが、将来的には、他メーカーのスポーツカーにも搭載を拡大していく計画であると云う。