世界耐久選手権ル・マン24時間、トヨタの中嶋が悲願の初優勝


FIA世界耐久選手権(WEC)第2戦ル・マン24時間レースの決勝レースが現地時間の6月16日(土)から翌6月17日(日)に行われ、トヨタ自動車から出走したTS050 HYBRIDが悲願の初優勝を飾った。

フランスのサルト県ル・マン市郊外にある1周13kmのル・マン サルト・サーキットに、トヨタ自動車株式会社(本社:愛知県豊田市、社長:豊田章男)傘下のレーシングブランド「TOYOTA GAZOO Racing」から出走した2台のTS050 HYBRID。このうち8号車(中嶋 一貴/セバスチャン・ブエミ/フェルナンド・アロンソ)がサルト・サーキットに集まった256,900人のモータースポーツファンの前で24時間・388周・5,286kmを消化して優勝。

2位にトップと2周差の386周を消化したTS050 HYBRID 7号車(小林 可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス)が入り、スタートからトヨタ陣営が終始首位を譲ることのないポール・トゥ・ウインで、ゴールラインを潜った。

この結果、今季のFIA世界耐久選手権(WEC)2018-19スーパーシーズンは、8号車に乗った3人のドライバーがWECのシリーズランキングでもリードを広げることになった。これを追う7号車も、レースでは度々トップを快走した上で2位表彰台を獲得した。

トヨタからはこれまでに延べ47台のレース車両を引っ提げてル・マン24時間レースに参戦。6度の表彰台を獲得してきたが、昨年まで出走していたポルシェ陣営を追い込むことができす勝利には至っていなかった。

しかし通算20回目の挑戦となった今大会での勝利で、トヨタは日本メーカーとしてはマツダに続いて2社目のル・マン24時間レース勝利を達成。また8号車のドライバー中嶋 一貴はル・マン史上初の日本人ドライバーと日本の自動車メーカーによる総合優勝となった。

レースで8号車は、速度規制区間の速度違反でストップ&ゴーペナルティを受け、一旦は先行する7号車との差が広がったが、深夜走行のセクションで、アロンソがF1のモナコ制覇に続き、世界3大レースのひとつに数えられるル・マンでの勝利に執着。猛烈な追い上げを見せて7号車を逆転。激しい首位争いが繰り広げられた。

レース終盤に8号車と7号車は、僅差の同一周回で首位を争っていたが、終盤、7号車は燃料使用量の上限超過違反により後退。最終的に8号車の中嶋 一貴が2位の7号車に2周差、3位に12周差をつけて、チェッカーフラッグを受けた。

なおWECの次戦となる第3戦シルバーストーン6時間レースは、9週間後の8月17日から19日にかけて行われる。トヨタでは、ル・マン初勝利の勢いに乗り、今季のシリーズ優勝を狙っている。

以下はチームメンバーのコメントとなる。

村田 久武氏、 TOYOTA GAZOO Racing WECチーム代表
このチーム全員でル・マン優勝を遂げたことをとても誇らしく思います。ようやくトヨタにとって悲願だったル・マン24時間を制覇することが出来ました。

これまでの関係者の厳しい努力の積み重ねと決して諦めない強い思いに心から感謝をしたいと思います。これまで経験して来た厳しく辛い結果を乗り越えてやっと掴んだ今日の表彰台の真ん中は本当に素晴らしい瞬間でした。

小林 可夢偉(7号車)
8号車のスタッフ、そしてチーム全員におめでとうと言いたいと思います。トヨタは何のトラブルの無いまま最後まで走り切れる車両を作り上げるという、素晴らしい仕事をしました。本当に素晴らしいことです。

我々ももちろん勝利を望んでいましたが、8号車は本当に強かったです。このような耐久レースでは、リスクを冒すことなく車両をコントロールし、戦っていかなくてはなりません。そういう意味でも、2台が揃って無事に完走出来たのは良かったです。2位に入り、トヨタの1-2フィニッシュの一翼を担えたことにはとても満足しています。

マイク・コンウェイ(7号車)
僅差のバトルが長く続き、モニターを見ながらハラハラしていました。我々全員が、余計なリスクを犯さない範囲で、可能な限りのバトルを展開しました。

長いレースの中で刻々と状況が変化していく中、トヨタの2台は常に素晴らしいレースカーであり、全員が全力で戦っていました。優勝した8号車には祝福を送ります。彼らにとって、素晴らしいレースウィークで、素晴らしいレースになったことでしょう。我々は僅かに及びませんでしたが、それでもチームに取っては最高の結果となりました。

ホセ・マリア・ロペス(7号車)
8号車のスタッフに祝福を送ります。そして可夢偉、マイクと共に、7号車の一員であることを本当に誇りに思います。我々は全力を尽くしました。

ドライバーの6人が表彰台に上りましたが、多くのスタッフが全力で開発を続けてくれています。この勝利はトヨタにとって偉業ですし、最大の目標でもありました。我々2台はフェアな戦いを繰り広げ、そして2台揃ってトヨタにトロフィーをもたらすことが出来て最高です。

中嶋 一貴(8号車)
ついに長い間待ち望んでいた優勝を手にすることが出来、言葉にならないほど嬉しいです。最高のチームメートと共に戦ったTS050 HYBRIDは、全くトラブルもなく素晴らしい性能を発揮してくれました。

トヨタ自動車が1985年の参戦以来、待ち望んでいた“ル・マン”優勝を勝ち取ることが出来たのは、これまで携わった多くの方々の努力の結晶であり、とても誇りに思います。

セバスチャン・ブエミ(8号車)
今日の優勝は自分のレース人生の中で最高のものです。レースの終盤の数周は2016年の悪夢が思い出され、ゴールする瞬間までは半信半疑でした。ところがゴールした瞬間に、チーム全員の努力が実り、すごいことを成し遂げた実感が湧いてきました。クルー全員と共に喜びを分かち合いたいと思います。

フェルナンド・アロンソ(8号車)
世界3大レースと言われるル・マン24時間で、優勝という最高の結果が得られてとても幸せです。厳しい場面の連続で、それがずっと続く“ル・マン”は集中力を保ちながら、やるべき事を確実に実行することが求められます。

今日のレースも23時間が過ぎた時点でTS050 HYBRID 2台が1分以内という厳しい状況でしたが、チームとして1-2フィニッシュという最高の結果も得られ大変満足しています。

トヨタ自動車・豊田社長

「思いっきり走ってくれて、ありがとう!」20回目の挑戦にして誰より長い距離を走ってくれたドライバー達みんなに向けてこの言葉を送ります。

同時に、388ラップ、5,300キロ余りを走りきったクルマ達にもこの言葉をかけてあげたいと思います。そして、「思いっきり走らせてくれて、ありがとう!」

ずっと、この戦いを支えてくださったファンの皆さま、共にクルマを作り上げてきたパーツメーカーの皆さま、心ひとつに戦ってきてくださったパートナーの皆さま、そして、現場で戦い続けたチームのみんなに今、伝えたい言葉です。みんな本当にありがとう!

これまで19回のレースで一度も勝てなかった我々は、ただひたすらライバル達の背中だけを見て、それより速く走るクルマを作れば勝てるだろうと新しい技術に挑み続けていました。しかし19回繰り返しても勝てない。

「クルマを速くするだけではル・マンには勝てないんだ!我々には“強さ”がない!強いチームにはなれていない!」昨年のレースの後、私は思わずチームに声を荒げました。

チームはゼロからのやり直しとなり“なぜ強さがなかったのか?”それを考えるところからの再出発となりました。そして、チームが、考え、辿り着いたのがトヨタが大切にし続けている「改善」という考え方です。

クルマをつくるひとつひとつの作業…走らせる為のひとつひとつのオペレーション…それに向かう一人一人がどうしたらミスが起きないかを考え、それを徹底する。そうするとまた次にやるべきことが見つかっていく。

欠けていた「強さ」を身につけようと1年間ひたすらに改善を繰り返し、積み重ねてきました。

思えば、敵わなかったライバル“ポルシェ”は元よりそうした強さを身につけていたのだと思います。今年、直接、競い合うことはできていませんが、それに気づかせてくれたポルシェなど、偉大な過去のライバル達にも、改めて感謝いたします。

レースの前、チームの一員から私にメッセージが届きました。「今年はドキドキが止まりません。ただひたすら改善を重ねてきましたが、それで分かったことは、改善に終わりはないということでした。それを知ったことがドキドキの原因だと思います。足りない部分が、まだどこかにあるはず…ゴールの瞬間まで仲間と、もがき続けます。モリゾウさん、見守っていてください」

これを読み、このチームは“強さ”を身につけ始めたと感じることができました。

ゼロから作り直してきたチームだからこそ今回はなんとしても結果を残して欲しい…。だから、今年は現場にいられずとも全力で見守ると決め、そして一緒に戦うことができました。

このレースで戦うクルマを今、我々は、将来の市販車にしていこうとしています。「改善に終わりはない」というトヨタの現場では当たり前の言葉をモータースポーツの現場の彼らが身をもって理解し、勝利に結びつけたことでそれは実現に向けた大きな一歩を踏み出せたと思います。

悲願だったル・マン24時間レースでの勝利を、我々はようやく手にすることができました。この瞬間を、諦めずにずっと待ち続けてくださったファンの皆さまと、今日は心からの笑顔で1日を過ごしたいと思います。

しかし、これは、また次の戦いの始まりであり、次なる改善が始まります。改善に終わりはありません。明日から、次の夢の実現に向け、また一緒に戦っていただければと思います。また最高の笑顔で過ごせる日を目指して、引き続き、トヨタガズーレーシングを、よろしくお願いします。