WEC第2戦スパ・フランコルシャン6時間決勝、トヨタが1位・2位。次戦ル・マン24時間へ臨む


5月6日(土)、FIA世界耐久選手権(WEC)第2戦スパ・フランコルシャン6時間の決勝レースが行われ、TOYOTA GAZOO RacingのTS050 HYBRIDが接戦を制し、1-2フィニッシュを飾った。

TOYOTA GAZOO Racingにとって今年のスパ6時間レースは、幸運と不運が混在したレースとも言える内容となった。

結果は、TS050 HYBRID #8号車が優勝、#7号車が2位に入り、TOYOTA GAZOO Racingにとって上出来のレースであったが、#8号車と#7号車は、フルコース・イエローのタイミングが少しずれていれば、その順位が入れ替わっていた可能性がある。また3台目の#9号車は5位でゴールした。

一方、今季トヨタ陣営のライバル、ポルシェAGのポルシェ919ハイブリッドは、ル・マン24時間の前哨戦とも云えるスパ・フランコルシャンで3位と4位を獲得した。

この2台は、6時間レースを消化するなか、トラブルに見舞われながらもレースを戦い抜いた。

アール・バンバー(ニュージーランド)/ティモ・ベルンハルト(ドイツ)/ブレンドン・ハートレー(ニュージーランド)組は、総合最速ラップを打ち立てて、919ハイブリッドの潜在力を示して一矢を報いたものの、スローパンクチャーによるタイムロスにもかかわらず3位に。

ポールポジションからスタートした現世界チャンピオンのニール・ジャニ(スイス)/アンドレ・ロッテラー(ドイツ)/ニック・タンディ(イギリス)組は、レースを中断する2回の「フルコースイエロー」の不運に見舞われながら4位でゴールした。

【トヨタ陣営のレース運び】レース序盤はポールポジションのライバル車がリード、セバスチャン・ブエミの#8号車とマイク・コンウェイの#7号車がそれに続き、プレッシャーをかけ続けた。

そして早くも10周目、#7号車がライバルを抜いて首位に立ち、その3周後には#8号車も2位に上がった。

ニコラス・ラピエールのドライブする#9号車はスタート直後の第1コーナーでポールポジションのライバル車の内側に飛び込んだが、止まり切れずにコースを外れ、大回りしてレースに復帰した。

その後ラピエールは猛烈な追い上げでポジションを挽回、2スティントを走り切って48周目に国本雄資にバトンタッチした時には、5位に返り咲いていた。

ドライブを引き継いだ国本にとればTS050 HYBRIDによるレースは初めて。加えて初めてのスパに手こずりながらも、周回を重ねるにつれてペースを上げる走りを見せ、チーム関係者の安堵を誘った。

序盤のトップグループの戦いは熾烈を極めたが、レースが半分を消化した午後5時半、小林可夢偉の駆る#7号車が2位以下に大きく差をつけて首位を走り続ける。

これに28秒遅れてアンソニー・デビッドソンの#8号車、さらに22秒遅れてライバルの#1号車が続いた。

#7号車は公式練習から好調にセッティングが決まり、ホセ・マリア・ロペスが抜けた2人のドライバーでの戦いとなったものの、小林もコンウェイも疲労の色も見せず快調にトップをひた走った。

しかし、レースはその後に他車のクラッシュから提示された2度のフルコース・イエローで劇的な変化を見せた。

その影響を受けたのは#7号車で、同車はイエローコーションが出る前に2度ともピットストップを済ませており、イエローコーションが出てからピットインをした#8号車を初めとするライバル達に対し1分にも達する大きなタイムロスを被ることとなってしまった。

その結果、レース終盤になって#8号車がトップを独走することになり、#7号車は後方でライバルと激しい2位争いを展開。しかし、その後小林の駆る#7号車は競り合いを制して2位に上がり、#8号車を猛追した。そして、最終ラップ、#7号車は、1秒9差まで#8号車を追い詰めた。

これは#8号車にとれば幸運の、#7号車にとれば不運のフルコース・イエローであった。

しかし、TOYOTA GAZOO Racingとしては2014年のWEC上海戦以来の1、2位獲得。2012年にWECに参戦し始めて以来13度目の勝利となった。

なお#9号車の国本は、周回遅れをかわすのに苦労したが、サラザンとラピエールから多くを学びながら目標の完走を果たし、5位に駆け込んだ。

【ポルシェ陣営のレース運び】対してポルシェの1号車は、ロッテラーのトライブでポールポジションからスタート。しかしラ・スルス入口でトヨタ8号車に抜かれ3位に後退。

さらに21周目にはポルシェ2号車に抜かれ交替するという一進一退が続いた。その後の40周目にタイヤ未交換のチームメイトを追い抜き、47周目にタンディは燃料補給のためにピットイン。ドライバーチェンジンでピットストップ中のトヨタ8号車を抜いて2位に浮上する。

しかし64周目にトヨタ8号車がタンディを抜き3位に後退。94周を過ぎて燃料補給の直後に「フルコースイエロー」が発生。ジャニは3位を維持するものの、116周目のピットイン直前にポルシェ2号車によって抜かれ、4位のままでゴールを迎えた。

ポルシェ2号車は、ハートレーのドライブで5番手からスタート。セカンドローからスタートしたトヨタ9号車がグリーンライトの後にラ・スルスでブレーキングをミスしたことに乗じて順位を1つ上げる。

21周目で3位のポルシェ1号車を抜き、24周目に燃料補給でピットインするまで先にピットインしたトヨタを抑えて首位に立つなどの順位入れ替えの後、3位を維持。

49周目にフルサービスを受けるためピットインし、バンバーが4位でコースインしたが、3位に1秒差まで迫った55周目、右リアのスローパンクで早めのピットインを余儀なくされる。

チームは該当タイヤのみを交換して燃料を補給。バンバーは2時間のあいだ4位で走行。さらに79周目にバンバーに代わったベルンハルトがレース残り半分強の時点で4位を維持。

その後、ベルンハルトが116周目にポルシェ1号車を追い抜いて3位に浮上。しかしハートレーは、ピットストップする直前のラップにLMP2と接触。143周で燃料補給して新しいノーズセクションに交換して再びコースに生還。

戻ったハートレーは残り1時間の時点で3位のトヨタ7号車の背後に付き、167周後の最終ピットストップで給油のみを行いラストスパートを仕掛けたハートレーは3位に浮上した状態でゴールに進んだ。

なお次戦、6月17日(土)~18日(日)にWEC第3戦ル・マン24時間レースが開催される。TOYOTA GAZOO Racingは、6月4日(日)の公式テストデーを経て、優勝を目指したル・マン24時間レースに挑む。

【トヨタ陣営のコメント】
佐藤俊男 TOYOTA GAZOO Racing代表

ドラマチックで劇的なレースでした。今日のレースはファンの皆様にもご堪能頂けたでしょうか。ライバルとの幾度もの激闘の末に勝ち取った勝利をとても嬉しく思っています。

フルコース・イエローで二度もリードを失った#7号車にとっては、大変残念な内容でした。耐久レースではしばしば起こることですが、マイク、可夢偉と#7号車のスタッフには失望感が残る結果だったかもしれません。

#7号車は間違いなく今日の最速車両であり、全くミスの無い戦いでもありました。対して、#8号車は、運も味方につけて素晴らしい結果を上げてくれました。決してあきらめない彼らの姿勢がこの成果をもたらしたものと思っています。

また、ロー・ダウンフォース仕様の#9号車からはル・マンに向けて様々なデータを得ることが出来、技術的な視点からも重要な成果が得られたレースでした。

次戦ル・マン24時間レースは、我々にとって最大の目標であり、レースまでは限られた時間となりますが最後の仕上げに全力を尽くしていきます。

小林可夢偉(TS050 HYBRID #7号車)
我々のTS050 HYBRIDは、間違いなく今日の最速のクルマで、これで勝てなかったのは運がなかっただけのことです。

全力で追い上げ、レースの最後にはセバスチャンの直後まで追いつきましたが、チームの1-2体制でファイナルラップを迎えることを優先し、リスキーな追い上げは止めました。

チームにとっては最大のポイントを獲得出来、最高の結果となったと思います。特にここは我々にとってのホームコースのひとつであり、チーム全員の努力による素晴らしい結果になりました。

マイク・コンウェイ(TS050 HYBRID #7号車)
我々にとっては期待通りに行かなかった内容でしたが、チームとしては最高の結果になりました。

チームが本当に素晴らしい仕事をしてくれたおかげで、我々のTS050 HYBRIDは週末を通して絶好調でした。私が担当した最初のスティントはとても良いペースで、首位に立ったあと、更に後続とのリードを広げることも出来ましたが、ニ度のフルコース・イエローの出たタイミングが我々にとっては不運でした。

このレースではたまにこういうことがあります。とはいえ自信の持てる週末でしたし、この勢いを保ってル・マンに臨みたいと思います。

中嶋一貴(TS050 HYBRID #8号車)
我々にとっては厳しいレースであったはずでしたが、正直なところ複雑な気分です。表彰台の中央に立てたのは嬉しいですが、#7号車は本当に不運でした。

最終的にチームにとって最高の結果となりましたし、昨年、不運続きだった我々にも、今年は運が向いて来たのだと感じています。最高の結果と共に、良い気分でル・マンに向かうことが出来ます。

セバスチャン・ブエミ(TS050 HYBRID #8号車)
今日の我々のTS050 HYBRIDは、3台の中では最速とは言えず、本来は#7号車こそが勝利を得るに値する車両だったと思います。

彼らはフルコース・イエローで大量リードを失いました。我々はそれほど良いペースではなかったにもかからわず、それでも勝てたというのは良い兆候と思うべきなのかもしれません。

昨年我々はここで、レースをリードしながらもトラブルに見舞われました。今年は我々に運が回って来たのでしょうか。

アンソニー・デビッドソン(TS050 HYBRID #8号車)
今日は、幸運の恩恵に預かったのかもしれません。二度にわたるフルコース・イエローで好機を捉え、約1分のリードを奪い、#7号車の前に出ることが出来ました。

この週末、我々が苦戦したのに対し、マイクと可夢偉の#7号車は最初から本当に速く、勝利に値するのは彼らだったはずでした。最終的に1-2フィニッシュはチームにとっては最高の結果となり、ル・マンへ向けても良い流れが出来ました。

ステファン・サラザン(TS050 HYBRID #9号車)
我々はロー・ダウンフォース空力仕様の車両でレースに挑みましたが、タイヤの摩耗が思いのほか酷く、レースは苦しみました。

しかし、私自身は全力でプッシュを続け、良いペースで走ることが出来、久しぶりのレースを楽しみました。WECの初レースとなった雄資にとっては、経験を積むことこそが重要で、そのためにも完走が目標でした。

全体的に見れば悪くない週末と言え、ロー・ダウンフォース仕様のTS050 HYBRIDも良い素性を持ち、ル・マンへ向けて大きなポテンシャルを秘めていることも分かりました。

国本雄資(TS050 HYBRID #9号車)
WECでの初レース、そして初めてのスパに臨み、たくさんのことを学びました。多くの周回をこなしたことで、遅いクルマを追い越す手法やタイヤマネージメントなどについても貴重な経験を積むことが出来ました。

順位は今日の一番の目標ではありません。今回はル・マンへ向けた準備という重要なステップであり、その意味ではとても満足しています。

ニコラス・ラピエール(TS050 HYBRID #9号車)
チームにとって最高の結果で、素晴らしい一日になりました。残念ながら我々のTS050 HYBRIDはル・マン仕様の車両でこのコースに対してはダウンフォースがやや低かったため、タイヤの摩耗が激しく、上位を争うことは出来ませんでした。

とはいえル・マンへ向けて多くを学び、最も重要な完走を果たせたので、その意味ではまずまずの週末でした。

【ポルシェ陣営のコメント】
LMP1担当副社長のフリッツ・エンツィンガー
私達はポールポジションからスタートし、最速レースラップを打ち立てて表彰台を飾りましたが、残念ながら2台ともにというわけにはいきませんでした。

しかし、最初の2戦にローダウンフォース仕様で出場するという戦略決定は正しかったと考えています。

来週の30時間にわたる最終テストを心待ちにしています。マニュファクチュアラー選手権はわずか数ポイント差なので、自信をもってル・マンに挑みます。

チーム監督のアンドレアス・ザイドル
レース優勝を飾ったトヨタの皆さん、おめでとうございます。ポルシェの2台の車は、テクニカルトラブルなくゴールし、選手権ポイントを稼ぐことができました。

スパのレースでは明らかに私達の最高のパフォーマンスを出し切ってはいません。2014年以来、毎年ここでポールポジションを獲得しましたが、優勝はしていません。

ローダウンフォースのエアロ仕様の車両によって、ハイダウンフォース仕様のトヨタのスピードに対抗することはできませんでした。なぜならタイヤの磨耗が激しかったからです。

しかしローダウンフォース仕様の3台目のトヨタを凌ぐことはできました。パンクによるピットインでロスタイムが発生しましたが、性能は確かでした。来週アラゴンで耐久テストを行いル・マンに備えます。

ポルシェ919ハイブリッド1号車のドライバー
ニール・ジャニ(33歳、スイス)
ペースはほぼ期待どおりでした。1台のトヨタを凌ぐことができましたが、他の2台には届きませんでした。フルコースイエローによる2回のタイムロスという不運もありました。レースを取り戻す唯一のチャンスが雨でした。

アンドレ・ロッテラー(33歳、ドイツ)
すばらしいスタートを切ることができました。トヨタが追い上げてきたときは驚きました。まさかラ・スルスのブレーキングで抜かれるとは思いませんでした。

スティントの前半は好調でしたが、その後タイヤの磨耗が激しくペースを保つことができませんでした。最初のスティントの終盤にかけて、状況は改善しましたがムラがありました。

最初のピットストップで戦略を変更し、終盤に雨が降る可能性があったので、タイヤ無交換でダブルスティントを走行する必要はないと判断しました。最終スティントは霧雨にもかかわらず好調でした。トヨタは強敵ですが必ず挽回します。

ニック・タンディ(32歳、イギリス)
セカンドドライバーとしては標準的なスティントでした。終盤に巻き返すはずだったタイヤ戦略が少し外れ、雨はほとんど降りませんでした。

ポルシェ919ハイブリッド2号車のドライバー
アール・バンバー(26歳、ニュージーランド)
私のスティントは好調でした。トヨタの8号車を追走しましたが残念ながらスローパンクチャーに見舞われました。その後は再び好調で前走車との差を少し縮めましたが40秒の差を取り戻すことはかないませんでした。

ティモ・ベルンハルト(36歳、ドイツ)
パンクの後にアールを引き継いでロスを取り戻そうと努めました。差は縮まってニールの前に出ました。フルコースイエローを利用しましたがトヨタも同様でした。最終的にブレンドンが見事なラストスパートを掛けましたが、今日はこれ以上の結果を出すことはできませんでした。

ブレンドン・ハートレー(27歳、ニュージーランド)
スタートからトヨタが速く、ダブルスティントを予定していました。温暖な気候で車のバランスは前日までとは異なりましたが最初のスティントの終盤に追い上げてピットストップ直前にアンドレを抜きました。

1号車は戦略を変えましたが僕達はトヨタ8号車への接近を続けました。アールがパンクに見舞われて戦略がうまくいかなかったことは残念でした。

終盤はチームのすばらしい仕事のおかげで見事なゴールができました。上段ではなくても表彰台に登ることができたのでル・マンへの自信となりました。

WEC第2戦スパ・フランコルシャン6時間 決勝結果(LMP1-Hクラス)
1.中嶋一貴/セバスチャン・ブエミ/アンソニー・デビッドソン_トヨタTS050ハイブリッド_173周

2.小林可夢偉/マイク・コンウェイ_トヨタTS050ハイブリッド_-1.992秒遅れ

3.ティモ・ベルンハルト/アール・バンバー/ブレンダン・ハートレー_ポルシェ919ハイブリッド_-33.291秒遅れ

4.ニール・ジャニ/アンドレ・ロッテラー/ニック・タンディ_ポルシェ919ハイブリッド_-50.155秒遅れ

5.ステファン・サラザン/国本雄資/ニコラス・ラピエール_トヨタ TS050ハイブリッド_-2Laps遅れ