トヨタ自動車傘下の米国・研究機関TRI、人工知能を介して次世代自動車の材料開発・探索を加速化


今後4年間で総額3500万ドルの資金を投じて、外部の研究機関等と材料開発・探索で協力

トヨタ自動車株式会社(本社 : 愛知県豊田市、代表取締役社長 : 豊田章男、以下トヨタ)の子会社で、米国において人工知能等の研究開発を行うToyota Research Institute, Inc.(以下、TRI)は、人工知能を通じて材料開発・探索を加速させるべく、今後4年で総額約3500万ドルを投じ、外部の研究機関、大学、企業と協力する。

今回の協力では、次世代のゼロ・エミッション車やエコカーに用いうる、新たな電池材料や燃料電池用触媒の開発に向けた材料研究を模索する。

具体的には、材料に関する先進的な計算モデル、実験データ取得の新手法、機械学習や人工知能を活用し、材料開発・探索にかかる時間を劇的に短縮することを目指す。

各研究プロジェクトにおいては、新材料の開発・探索そのものに加え、その加速に向けた手法や手順の開発にも取り組んでいくことを想定している。

協力の対象となる研究領域には、1)バッテリーや燃料電池用の新材料、モデルの開発、2)新材料の設計・開発に向けた機械学習、人工知能、情報科学理論の画期的な活用、3)シミュレーション、機械学習、人工知能、ロボティクス技術を活用した自動材料探索システム、などが含まれる。

最初の協力先として、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ニューヨーク州立大学バッファロー校、コネチカット大学のほか、英国の材料研究開発企業イリカ(Ilika)社を選定。さらに複数の研究機関等とも協力の検討を進めている。

TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)のChief Science OfficerであるEric Krotkov氏(エリック・クロトコフ)は「トヨタは人工知能を、様々な産業で活用できる重要な基盤技術と捉えている。

今回、人工知能を通じて材料科学の限界を押し広げていく機会に恵まれたことを誇らしく思う。

材料開発・探索を加速させることで、将来のクリーン・エネルギー社会に向けた下地を作るとともに、2050年までにグローバル新車平均走行時CO2排出量を90%削減するというトヨタのビジョン達成に近づくことができると考えている」と述べた。

TRIは、今回の材料科学分野における研究加速に加え、自動運転技術を通じたクルマの安全性向上、より幅広い層の方々への運転の機会の提供、モビリティ技術を活用した屋内用ロボットの開発という、4つの目標を掲げ研究開発を推進している…。

ちなみに今回の上記、トヨタの大本営発表で興味深いのは、TRIことトヨタ・リサーチ・インスティテュートが「今後4年で総額約3500万ドルを投じ、外部の研究機関、大学、企業と協力する」される部分だ。

単純に3500万ドルと云えば、現時点の為替換算でおよそ40億円を割り込むあたりとなる。この予算額をどう見るかは、単なる額面だけの判断は難しいかも知れないが、今回掲げた目的を考えると、必ずしも巨大な予算数値とは言えないだろう。

そもそも「新たな電池材料や燃料電池用触媒の開発に向けた材料研究を模索する」という指針は、より永い目で見た同社の「経営指標」に於ける、いちKPIのひとつでしかないのではないかとも思える。

そこで改めてトヨタ自動車の足元を見つめてみると、現社長の豊田章男氏は、歴代先達のなかでも、国産乗用車の実現を夢見た豊田喜一郎氏への思い入れが特に強いとされる。

そしてそのトヨタの原点は、豊田自動織機製作所内で誕生したベンチャー組織の「自動車部」に行き当たる。

現在、トヨタと云う「暖簾」は、世界をリードする自動車メーカーであることを背景としているが、かつての豊田自動織機製作所内の自動車部と同じく、今度は「TRI」がそうしたベンチャー精神を担い、全く新たな事業上の地平を目指しているのではないかと筆者は思える。

実際に今日、数多のICT企業はビッグデータを足掛かりに、人類の生活環境や経済環境をこれまでは異なる角度で切り取ることで、既存の社会インフラとは異なる時代の創造を見据えており、そうしかなかで自動車業界という限られた世界下に於いて、旧来型自動車メーカーと狭義の覇権争いを繰り広げている。

であるなら、トヨタが目指す未来の着地点は、次世代自動車メーカーとして勝ち残るという立ち位置とは全く異なる、別次元のスコープを設定しているのかも知れない。