トヨタ、プリウス試乗記。「先駆け」の変化に応えた新たな挑戦


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プリウスという名に与えられた「先駆け」の意味の変化

1997年に「先駆け」を意味するラテン語名で登場。電動モーターとレシプロエンジンによる世界初の量産ハイブリッドカーとなったプリウス。

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初代プリウス

この初代「NHW10」型から、歴代で4代目を迎えた新型プリウスは、フランクフルトショー直前の9月8日(日本時間9日午後)、米ネバダ州・ラスベガスでその全容の初お披露目を行った。

MOTOR CARS読者の諸兄は、そうした登場の流れから、新型プリウスに、これまでとは違った文脈を読み取る向きもあるだろう。

米国市場に於けるプリウスは、新たな動力源を持つ全く革新的なクルマとして、米国の自動車マーケットで憧れを以て受け入れられ、未来を切り拓く文字通りの「先駆け」として、2013年をピークに売れに売れ続けていた。

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2代目プリウス

しかし翌2014年1-3月期、カリフォルニア新車ディーラー協会の新車販売台数で、アコードハイブリッドがプリウスを抜くなど、競合車が次々と台頭。この時期、持ち前のハイブリッド技術を背景としたステータス性に陰りが見え始めた。

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3代目プリウス

その間、日本国内に於いてもハイブリッド車の総販売台数で、アクアがプリウスを抜き去るなど、トヨタの国内外に於けるハイブリッド車戦略も大きく変化している。

このためハイブリッド車戦略の大きな幹となるべきプリウスにも、これまで唯一の金看板であった「ハイブリッド車」という売りだけではなく、このカテゴリ車の常識を塗り替える「新たな革新性」が求められるようになったのである。

好き嫌いが鮮明になりそうな個性極まるエクステリア

その目的は明快で、ハイブリッド車の先駆けであるプリウスに、クルマ作りの常識を覆す別の新たな革新性を持たせ、台頭する同一属性のライバル車たちを退けること。これこそが、その使命である。

そんな新型プリウスの特徴は、独自の設計思想から、新搭載のメカニズムに始まり、製造システムに至るまで、実に多岐に亘るが、まずは好き嫌いが鮮明になりそうな個性極まるエクステリアデザインがその肝となるだろう。

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4代目プリウス プロトタイプ
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トランスアクスルの断面

搭載モーターの小型化や、そのモーターとエンジンとを繋ぐトランスアクスルの短縮(長さ方向で409mmから362mmに)等を介して、ノーズ先端で70mm、フード後端でも62mmも鼻先が低められている。

また先代では、ほぼデルタ型だったボディ側面のシルエットは、その頂点が170mm前進。これまでの歴代プリウスの作法とは異なり、むしろクーペ調のファストバック形態を思わせるキャビンシルエットとなっている。

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実寸法でも3代目プリウスの、全長4,480mm×全幅1,745mm×全高1,490mmから、新型は全長4540mm(+60mm)×全幅1760mm(+15mm)×全高1470m(−20mm)mと典型的なワイド&ローフォルムへと発展した。

ボディ骨格は、旧来式のスポット溶接による組み立てから、レーザー照射を利用してボディ鋼鈑を組み立てるレーザースクリューウェルデイング方式を新採用することで、溶接点数を大きく増加させてボディ強度を強化した。

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さらに骨格の随所に、切れ目のない環状構造(リング状・目の字構造など閉じられた構造)や、閉断面構造(閉じられたボックス状構造)など、作り込みに手間暇の掛かる骨格部品を組み合わせることで、旧型比で60%ものボディ剛性向上を実現させている。

JC08モードで40km/Lを達成するパワーユニットは、既存の直列4気筒DOHC構造を持った「2ZR-FXE」エンジンの改良型である。

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1.8L 「2ZR-FXE」エンジン

吸気ポート形状のストレート化や、発泡ゴムをコーティングしたウォータージャケットスペーサーによって、シリンダ壁面温度の最適化を図り、エンジン72kW[98ps]/5,200rpm+モーター53kW[72ps]の最高出力。エンジン142N-m[14,5kgf-m]/3,600rpm+モーター163N-m[16,6kgf-m]の最大トルクを発生させる。

特に旧プリウスオーナーは、新型所有の満足度が高まる

室内へ乗り込む際のアクセス性は、先代モデルに習ったもので、フロアフレームに1500MPaもの強固なホットスタンプ材(鋼鈑加工で加熱を併用したプレス成形)が使われているにも関わらず、サイドシルは充分低く、開口面積も広いから、乗り込み自体は容易だ。

乗り込んだ後のインストルメント・パネルの印象は、センターメーターを配した歴代プリウスのDNAを受け継ぐもの。

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但し、そのデザイン手法は、メーターとディスプレイがインストルメント・パネルに巻き付くように配される格好で、同社を代表する燃料電池車ミライを思わせるものとなっている。

なおそうした見た目の押し出し感だけでなく、具体的に内装各部に貼り込まれている表皮など、室内の質感は確実に高まっている。特に旧型プリウスオーナーであるなら、新型プリウスを所有した際の満足度は高いだろう。

メインディスプレイは、4,2インチのTFTツイン表示メーターとなっており、画面右側の速度・燃料系表示に対して、左側はステアリング部のスイッチで情報表示が切り替えられるようになっている。なおヘッドアップディスプレイはカラー化されている。

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ステアリングを握った際の視界は、フロントノーズが低くなったこと。フロントウインドウの上部開口が広がっていること。また室内からは、ワイパー構造が見え難い構造になっていることなどから、先代モデルに比べて、視界がさらに開いた状態になった。

併せて、ドライバー・シート並びにパッセンジャー・シートのいずれも、乗員のショルダー部から肘に掛けての空間が拡がっている。

路面のサーフェスの状況が、しなやかかつリアルに伝わる

スターターボタンを押し、前方のセレクターレバーを引いてDレンジに入れ、慎重に走り出す。

まず最初の印象は、モーターが小型化された等のパワーユニット変更の印象が全く感じられない。いつものプリウスの走りである。さらにアクセルを踏み込むと、トルクの厚みが増している印象が得られた。

乗り味は、先代に比べるとソフトかつしなやかである。路面のサーフェスの状況が穏やかにシート座面に伝わってくる。

これは車体重心が20mm低められたことで、その分、車体を支えるために使うサスペンションの仕事量が減ったことによる。その分、路面からの入力に対応することができるようになったことで、ダンパーの動きがしなやかになった。

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一方で、乗員を包み込むボディ骨格の言わば「殻」の部分は堅く高剛性であり、中速域で大きな突き上げを受けても、不快な振動や共鳴音を感じさせることがない。

対してパワーユニットの出力特性は、低速域から発生するトルクがたっぷりしている。

新型プリウスでは、小型・高速化されたモーターから減速ギアを介して実用トルクを取り出しているのだが、その特性はエンジンとの繋がりも含め、むしろ先代モデルよりも違和感が少ないと感じられるほどスムーズだ。

そのまま高速域に向かって速度を高めていくと、モーターならではのフラットなトルク感を伴ったまま、エンジンのキャラクターが次第に顔を見せ始め、回転上昇に勢いが増す頃には、弾みがつくようにトップエンドを目指す味付けとなっている。

ボディ骨格の剛性向上がドライビングの美点に直結する

しかしそんなパワー特性よりも、むしろ心引かれたのは常用速度域に於けるステアリングの切れ味だ。ステアリング初期操作に対するノーズの入りが極めてリニアなのである。

これはボディの骨格剛性が高いためで、ステアリングを切り始める初期段階に於いてステアリングシャフトへの操舵力が、リアルかつ素直に伝わる感触がある。

もちろん一旦、ステアリングを切り込んだ後はスポーツカーの様なシャープ印象とは云えないが、操舵と同時にノーズがリニアに反応していく様は、心が晴れやかな気持ちになれる程、絶妙な操舵バランスを見せつけてくれる。

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今回の試乗コースに含まれていたショートサーキットに於ける走行でも、一般道に於ける街中から高速道路に該当する速度域であれば、強いアンダーステアが出ることもなく平和そのもの。

若干ハードに走ると、軽くリアが出てくるものの、その際、アクセルペダルに足を乗せていれば、スムーズなターンインが実現する。

この際のブレーキフィーリングも大きく改良された。従来車の場合は、ブレーキペダルのストローク幅によって制動力が左右されていたのだが、新型プリウスでは、踏力の強さも制動力にリンクされており、これによって、ドライバーの意図に対してリニアな制動力が得られるようになっている。

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回生ブレーキと油圧ブレーキの切り替えによる効き味の変化も、巧みに再チューニングされている様で、特に街中でのブレーキングで違和感のあった制動フィーリングが大幅に改善している。

トヨタ車の中で、最も設計基準が進んだクルマであるということ

安全装備のドライバー支援システムでは、ミドルモデル向けの上位ランクの「トヨタ・セーフティセンスP(TSS P)」が搭載されている。

これはコンチネンタル社から供給されるミリ波レーダーと、高性能単眼カメラを組み合わせたタイプで、歩行者検知に優れた特性を持つ。

発揮される性能値では、プリクラッシュ・システムで10km/h~80km/hで作動。対歩行者では30km/h以下で作動。対車両では10km/h以上で作動する。

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なお今回の新型プリウスから新採用となった「TNGA」プラットフォームは、B/Cセグメント用の新世代骨格である。

今後、同一プラットフォームを導入する車種は、エンジンの搭載位置とバルクヘッドの距離の固定化、ラジエーター、空調ユニット、リヤ・サスペンションなどの主要な構成部材のモジュール化が共通項目となる。

それゆえ、新型プリウスの骨格は、より上位の車格にも対応した余裕を持っていると言える。

その恩恵として、トヨタの開発者が心底納得するまで手を入れ、まさしく「快心の作」と言うまでに完成された「ダブルウイッシュボーン式の独立懸架の採用」、「贅沢な傾斜ベアリングの採用によるフロント・ストラットのキャスター角増大(7,5度)」、「高張力鋼板の使用比率が異例の7割」に達すること。

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ダブルウイッシュボーン式の独立懸架

さらにはドアの閉まり音や、排気サウンドのチューニングに至るまで、既存の新車開発であれば、開発コスト上の兼ね合いで、おそらく手付かずに置いておかざるおえない領域にまで、深く踏み込んでいる。

例えば、こうした車体骨格に関わる安全基準をひとつだけ挙げると、車体前面の4分の1オフセット衝突での安全性評価を検証しているクルマは、現段階では新型プリウスに限られる。

その他、路車間通信を行なう「ITSコネクト」の搭載が可能であることなど、現在市販されているトヨタ車の中で、最も進んだ設計基準のクルマに乗りたい場合、その選択肢は新型プリウスしかない。

ボディサイズも、日常生活上の使い勝手を考えると最適であり、4人家族に充分な乗員並びに荷室空間が用意されている。

このことから、1度選んだクルマは長く乗りたいユーザー。リセールバリューをより高く保ちたいユーザー、さらにはエンジニア推薦の良質なハンドリング特性を味わいたいユーザーたちには、お勧めできるクルマであるだろう。

搭載バッテリーの違いに拘るより、求める使用環境に拘るべき

最後に新型プリウスと言えば、気になる2タイプの高電圧バッテリーの話をしたい。

いずれも搭載位置は、共にリアシート下の同一位置に積まれるものの、車両のグレード別により、従来型のニッケル水素式と、リチウムイオン式の2種類が設定されている。

その搭載タイプの違いは、燃費指向のAとEグレードにはリチウムイオンタイプが載せられている。

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リチウムイオンバッテリー

但しいずれのユニットもパッケージ容積は同じ。ちなみにユニット単体の重量は、リチウムイオンタイプが24.5kgと圧倒的に軽量である(ニッケル水素タイプは40.3kg)。

「搭載種別の使い分けはどうなっているか」を言うと、車両装備が充実していて、かつ燃費志向の見地により、車体の軽量さを求められる車種グレードのAとEにリチウムイオンタイプが搭載されている。

一方、元々車両重量が軽めで、車体重量対する燃費の影響や、制約が無いグレードにはニッケル水素タイプが搭載されている。

但し上記を踏まえ、必ずしもリチウムイオンタイプが上位にあるとは云えない。

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ニッケル水素バッテリー

と言うのは、トヨタ自身がユニットの開発体制並びに製造工場(外部調達ではなく自前開発と製造が可能)を持つことから、トヨタ自身で、数多くのパテントを持つニッケル水素タイプも大幅に改良されているからだ。

今回の搭載例では、ニッケル水素タイプでもユニットが約10%小型化され、充電性能も28%向上し、「性能的には両ユニット共に比肩するレベルにある」と、同社・HVシステム開発統括部・HVシステム開発室・主幹、伏木俊介氏も述べていた。

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現実にトヨタが、独自のパテントを持つゆえに、他社がニッケル水素電池を搭載するのはなかなか難しく、この領域の開発・生産に於いては、トヨタの独断場となっている現実もある。

ゆえにそうした意味で、トヨタ車の場合、今後も当面はニッケル水素タイプと、リチウムイオンタイプのふたつのユニットを車両の利用環境別に自在に選択していくという流れになるだろう。(坂上 賢治)

スペック
【プリウス・プロトタイプモデル】
全長×全幅×全高=4540mm×1760mm×1475mm
ホイールベース=2700mm
車両重量=1570kg
エンジン=直4 DOHC(1797cc)
最高出力=72kW[98ps]/5200rpm
最大トルク=142Nm[14,5]/3600rpm
モーター
最高出力=53kW[72ps]
最大トルク=163Nm[16,6]
バッテリー=
リチウムイオンまたはニッケル水素