ポルシェ製、WECレーシングカーのハイブリッドテクノロジーを解明する


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ポルシェAG(本社:ドイツ、シュトゥットガルト 社長:Dr.オリバー・ブルーメ)のル・マン・プロトタイプ・クラス1(LMP1)用のポルシェ919ハイブリッドは、7月23日に2016年のドイツにおける唯一の出場機会であるFIA世界耐久選手権第4戦「ニュルブルクリンク6時間レース」に参戦する。

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現時点で、WECの選手権シリーズをリードしている同マシンは、タイトル防衛のためにポイント獲得を目指して戦うのが目的であるが、それと同時に、もうひとつの重要な使命も担っている。

それは、将来のポルシェ製スポーツカーのための技術開発である。ポルシェは、919ハイブリッドにより、レーシングスピードに於ける新たなEVテクノロジー領域を開発した。

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具体的には、2015年に公開された公道走行可能な完全電動スポーツカー「ミッションE」。このクルマのために、設計者達はこのプロトタイプレーサーから800Vテクノロジーを採用している。

ポルシェは、2度のル・マン優勝を果たしたマシンの設計に於いて、次世代スポーツカーの姿を追い求めて、とりわけドライブ・コンセプトに関しては、あらゆる可能性を徹底的に追及してきた。

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その中には、ポルシェが今までに作り上げた最も効率的なエンジンである2リッターV型4気筒ガソリンターボエンジン、そして2種類の異なるエネルギー回生システムがある。

この仕組みは、制動時、フロントアクスルのジェネレーターが車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する。分岐したエグゾーストシステムの中では、1つのタービンがターボチャージャーを駆動する一方で、もう1つのタービンが余剰エネルギーを電気エネルギーに変換していく。

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ちなみに全回生量のうち、制動エネルギーが60%を占め、残り40%は排気ガスから得られる。

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回生された電気エネルギーは、リチウムイオンバッテリーに一時的に蓄えられ、要求に応じて電気モーターへ供給されていく。

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この「要求に応じて」とは、ドライバーが加速したい時にボタンを押すだけでエネルギーを呼び出せることを意味する。

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最新のレギュレーション変更に従って、エンジンの最高出力が500PS(368kW)を下回っているのに対し、電気モーターの出力は400PS(294kw)を軽く上回る。

しかし、これら2種類のエネルギー源の使用と相互作用には、高度な制御が必要となる。

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制動時には毎回エネルギーを獲得、すなわち回生される。ニュルブルクリンクの全長5.148kmのグランプリサーキットでは、これがあらゆるコーナーの手前で毎周17回発生する。

回生されるエネルギーの量は、制動の激しさによって、言い換えると、ドライバーがコーナーに達した時の速度と、コーナーがどれだけタイトかによって変わっていく。

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制動と回生は、全てのコーナーのエイペックスまで続き、ドライバーはそこから再び加速する。この瞬間における目標は、できるだけ多くのエネルギーを利用することに懸かっている。

それゆえドライバーは、スロットルペダルを踏み込んで燃料エネルギーを使うと共に、バッテリーから電気エネルギーの「ブースト」も行う。

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この際、エンジンがリアアクスルを駆動するのに対し、電気モーターはフロントアクスルを受け持つ。これによって919は、4WDシステムを用いてトラクションを失うことなく、コーナーから勢いよく飛び出す。

さらにストレートでは、排気ダクトの中のもう1つのタービンがフル稼働し、再びエネルギーを回生する。

エンジン回転数が安定して高い場合、エグゾーストシステム内の圧力が素早く上昇し、ジェネレーターに直結された2つ目のタービンを回す。

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しかし、両方のエネルギー源はレギュレーションによって制限されており、ドライバーは1周あたり1.8リッターの燃料と1.3kWh(4.68メガジュール)の電力しか使用することが許されない。

ドライバーは、1周が終わる時点でこの量を正確に、過不足なく使い切るように慎重に計算しなければならない。

これを仮に超過すればペナルティーが科せられ、少なければパフォーマンスが低下する。つまりドライバーは、正確なタイミングで「ブースト」を停止し、スロットルペダルから足を離さなくてはならないのだ。

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ル・マンでは、1周13.629kmの全長に合わせてレギュレーションが変更され、認められる電気エネルギーの量は2.22kWhとなった。これは電力エネルギーでの8メガジュールに相当し、レギュレーションで規定された中では最も高いエネルギークラスに該当する。

ポルシェは、この規制値を拡大することに挑んだ初めての自動車メーカーであり、2015年の時点では唯一の存在だったが、翌2016年には、トヨタも8メガジュールクラスに参戦している。

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一方で、アウディは6メガジュールを使用している。そしてWECのレギュレーションは、これらの差をほぼ完全に均衡させている状況にある。

ポルシェ919ハイブリッドのコンセプトの選択にあたっては、個々の選択肢が綿密に検討された。従ってポルシェがフロントアクスルの制動エネルギーを利用しようとしたのは当然のことであった。

なぜなら、この方式はすでにある程度開発され、さらに大きく進歩して、大量のエネルギーを得ることができるからである。

2番目のシステムとして、リアアクスルでの制動エネルギー回生と排気ガスの利用が検討され、排気ガスソリューションを有利に導く2つの点を見出した。

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そこには、まず何より重量、その次が効率である。制動エネルギー回生では、システムは極めて短時間に大量のエネルギーを回生しなければならず、それに対処するには重量が犠牲になる。

これに比べて排気ガス回生では、加速時間は制動時間よりもはるかに長いため、回生時間を長くとることができ、システムの軽量化を図ることができる。

加えて、919は既にエンジンの駆動システムをリアアクスルに備えているため、リアの出力が増大しすぎると、非効率なホイールスピンがより多く発生することになり、それによってタイヤの摩耗も激しくなる。

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こうした課題を前に919のハイブリッドシステムに関するポルシェの最も勇気ある決断は、電圧レベルに800Vを選択したことにある。

電圧レベルを決めることは、電動システムにおける根本的決断であり、バッテリーの設計、エレクトロニクスの設計、エンジンの設計、充電技術など他にも影響を及ぼす。そうしたなかでポルシェは、電圧レベルをできる限り高く設定した。

ただし、採用当時に於いては、この高電圧に対応したコンポーネントを見つけることは極めて困難であった。

特に、貯蔵媒体としてフライホイールジェネレーター、スーパーキャパシター、またはバッテリーのいずれが適切な貯蔵媒体なのかを検討した結果、ポルシェは、液冷式リチウムイオンバッテリーを選んだ。

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この貯蔵システムは、昨今の熱心な自動車ユーザーにはピンとくるかも知れないが、この中には数百個の独立したセルが備わり、それぞれが高さ7cm、直径1.8cmの円筒形の金属カプセルに封入されている。

なおエネルギーの貯蔵媒体の選択にあたっては、市販車とレーシングカーのいずれに於いても、出力密度とエネルギー密度のバランスをとらなくてはならない。

セルの出力密度が高くなるほど、より素早くエネルギーを充放電することができる。もうひとつのパラメーターであるエネルギー密度は、貯蔵可能なエネルギーの量を決定する。

レースに於いて、セルは譬えて言えば、巨大な開口部を備えていなくてはならない。なぜなら、ドライバーがブレーキングした瞬間に大量のエネルギーが一気に流入し、ブースト時にはそれが全く同じ速さで出て行かなくてはならないからである。

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日常的な例で言うと、もしスマートフォンの空になったリチウムイオンバッテリーが、919のバッテリーと同じ出力密度を持っていれば、1秒をはるかに下回る時間で完全に再充電される。

欠点としては、わずかなおしゃべりでも再び空になる。つまりスマートフォンを数日間使えるようにするには、エネルギー密度、すなわちバッテリー容量が最優先される。

日常で使用する電気自動車では、バッテリー容量は航続距離と言い換えられる。これに関して、当然ながらレーシングカーの要件と公道走行可能な電気自動車の要件は異なる。

しかし、ポルシェは919によって今まで想像できなかったハイブリッドマネージメントの領域に踏み込んだ。919は、将来のハイブリッドシステムの電圧レベルを試す実験室の役割を果たしたのである。

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その結果、LMP1プログラムを通じて、重要な基礎知識が発見されている。例えば、それはエネルギー貯蔵(バッテリー)と電気モーターの冷却や、極めて高い電圧の接続技術、バッテリーマネージメント、システムの設計に関することなど。

この経験から、市販車開発のスタッフは、800Vテクノロジーを採用した4ドアコンセプトカー「ミッションE」のための重要な専門知識を得た。

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このコンセプトカーを元にした市販車は、2020年末の終わりまでに登場する予定で、このクルマは、電気だけで走る初めてのポルシェとなる見込みだ。

<本件に関する読者からのお問い合わせ先>
ポルシェ カスタマーケアセンター 0120-846-911
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