トヨタ自動車の18年3月期決算説明会、豊田章男社長のスピーチ内容


トヨタ自動車株式会社(本社:愛知県豊田市、社長:豊田章男)は2018年3月期・決算説明会を2018年5月9日(水)13時30分より開催した。このなかで今四半期決算の説明会概要を2部制の延べ90分余りに拡張。その第2部では豊田章男社長自らが、トヨタの中長期の経営戦略等について語った。その概略は以下の通り。

*2018年3月期 決算説明会 Ⅱ部(以下・社長スピーチ)

本日はお忙しい中、ご足労いただき、誠にありがとうございます。

まず、本年も私どものクルマをご愛顧いただきました世界中のお客様、そして、一人ひとりのお客様に「もっといいクルマ」をお届けするために、懸命にご尽力いただきました、販売店、仕入先の皆様に深く感謝申しあげます。

また、日頃よりトヨタを支えていただいております世界中の株主の皆様、ビジネスパートナーの皆様にも、厚く御礼申しあげます。

先ほど2018年3月期の決算を発表させていただきましたが、私は、昨年のこの場で、2期連続の営業減益の見通しを発表した際に、「連敗は絶対にいけない」と申し上げました。

「高コスト体質」という課題が顕在化した訳ですから、「なぜなぜ」を繰り返して、真因を追求し、対策を講じ、改善を続けていけば、必ず前に進むことができると思うのです。

トヨタの真骨頂は「トヨタ生産方式、TPS」と「原価低減」です。

TPSの基本の1つに「原価主義より原価低減」ということがあります。
「原価に適正利潤を上乗せして販売価格を決める」のではなく、「販売価格は、市場すなわちお客様が決める」という大前提のもと、「我々にできることは原価を下げることだけだ」という考え方です。

「原価」を見ることは「行動」を見ることです。
一人ひとりが「原価意識」と「相場観」をもって、日常の行動の中にある「ムダ」を徹底的に排除する。
かつては、当たり前であったことが、いつのまにか「当たり前でなくなっていた」と気づくことからのスタートでした。

あらゆる職場で、「固定費の抜本的な見直し」を掲げ、日々の業務から、大きなイベント、プロジェクトに至るまで、一つひとつの費用を精査し、自分たちの行動の「何がムダか」を考え、地道な原価低減に徹底的に取り組みはじめました。

特に技術分野では、TNGAが二巡目に入ってまいります。
一巡目で達成した「より良いデザイン」や「性能アップ」を維持しながら、原価を下げる活動に取り組んでおります。

それぞれの地域のお客様に合った仕様・性能の見極めと徹底的な原価の作りこみに加え、開発の現場にも、標準作業や原単位、すなわち1つのアウトプットを出すために必要な時間、コストというTPSの概念を持ち込み、開発のリードタイムを短縮してまいります。

「連敗だけは絶対にしない」という強い決意のもと、トヨタに関わるすべての人が、全員参加で、地道に、泥臭く、徹底的に原価低減活動を積み重ねた結果が決算数値にも少しずつ表れ始めてきたのではないかと思っております。

ゆえに、今期の決算を、私の言葉で総括いたしますと、「たゆまぬ改善という『トヨタらしさ』があらわれはじめた決算」ということになるでしょうか。

いろいろな場面で申し上げておりますとおり、自動車産業は今、「100年に一度」と言われる「大変革の時代」に突入しております。
ライバルも競争のルールも変わり、まさに「未知の世界」での「生死を賭けた闘い」が始まっているのです。

新たなライバルとなるテクノロジーカンパニーは、我々の数倍のスピードで、豊富な資金を背景に、新技術への積極的な投資を続けております。

私どもといたしましても、先ほど申し上げましたように「原価低減」の力に磨きをかけて、「稼ぐ力」を強化し、新技術や新分野への投資を拡大してまいります。
さらに、グループはもちろん、同業他社や他業界も含めたアライアンスを強化してまいります。

私どものアライアンスは、資本による規模の拡大を目的とするのではなく、想いを共有するパートナーとオープンに連携することによって、より良いモビリティ社会の実現を目指すものです。

大切なことは、新技術を一番早く世の中に出すということよりも、全ての人がより自由に、安全に、楽しく移動できるモビリティ社会を実現するために一番役に立つ技術を開発することだと思うのです。

こうした考えに基づき、新たな取り組みを積極的に進めております。

私は、「電動化」、「自動化」、「コネクティッド化」といった新技術が進めば進むほど、クルマの可能性が広がり、トヨタの強みがより活かされる時代になっていくと考えております。

これからの時代に求められることは、お客様のニーズを先取りし、よりパーソナルなモビリティサービスをよりダイレクトにかつリアルタイムにお届けすることです。
すなわち、必要とされるサービスを、必要なときに、必要なだけ提供する世界であり、これは、まさに「TPS」でいうところの「ジャストインタイム」の世界なのです。

「ジャストインタイム・サービス」を実現するためには、単にクルマをネットワークにつなげればよいということではありません。
サービスを提供するメーカー、販売店、アライアンスパートナーのすべてがムダのないリーンなオペレーションでつながっていることが必要となります。

そして、今、販売店をはじめ、トヨタのモビリティサービスに関わる現場では、「TPS」に基づくオペレーションを導入することによって、サービスを提供するリードタイムの大幅な短縮にチャレンジしております。

これまで申し上げてまいりましたようにトヨタの強みは「TPS」と「原価低減」です。
自分たちの競争力であり、お家芸とも言えるこの二つを徹底的に磨くことは、今を生き抜くだけでなく、未来を生き抜くためにこそ必要だと考えているのです。

最後に、未知の世界での闘いに臨むにあたって、私の決意をお話ししたいと思います。

私は、トヨタを「自動車をつくる会社」から、「モビリティ・カンパニー」にモデルチェンジすることを決断いたしました。
「モビリティ・カンパニー」とは、世界中の人々の「移動」に関わるあらゆるサービスを提供する会社です。

これは、「従来の延長線上にある成り行きの未来」と決別し、「自分たちの手で切りひらく未来」を選択したことを意味します。

100年に一度の大変革の時代を、「100年に一度の大チャンス」ととらえ、これまでにないスピードと、これまでにない発想で、自分たちの新しい未来を創造するためのチャレンジをしてまいります。

これまでも、環境変化に柔軟に対応し、持続的に成長していくために、カンパニー制の導入など、新たな仕組みづくりに取り組んでまいりましたが、私の中で、最も大きな力となっておりますのが、本年1月に実施した役員体制の変更です。

私流に言いますと2009年6月に社長に就任してからの8年間はサーキットレースをしていたように思います。
つまり、トヨタという巨大企業のドライバーズシートに一人で乗り込み、自分のセンサーを頼りに、お決まりのコースを速く走らせようとしていた気がするのです。
その中で感じていたことは、成功体験を持つ巨大企業を変革することの難しさです。

競争のルール、ライバルが変わる中で、トヨタの舵取りのやり方も変えなければならないとの思いから、従来は4月に実施する役員体制の変更を前出しし、私と6人の副社長を中心とするマネジメントチームを編成いたしました。

更に、アフリカ担当の役員を豊田通商から、金融担当の役員を三井住友銀行から派遣していただきました。
社外取締役には、前経済産業省の菅原氏、前IPC会長のクレイヴァン氏、三井住友銀行の工藤氏に参画いただく予定です。

年齢、所属、性別、国籍に関係なく、それぞれの専門分野で培ったビジネスの知見、社外から見たトヨタの姿や世間とのギャップなどをトヨタの経営に持ち込み、牽引していただきたいと考えたからです。

いわば、サーキットレースからラリーに走り方を変えるという発想です。
ラリーでは、ドライバーとコドライバーが連携しながら、変化にとんだ実際の道をいかに速く走るかを競います。
ドライバーは、コーナーの先が見えていなくても、コドライバーが読み上げるペースノートを信じて全開でアタックします。
コドライバーは、これまでの経験や専門性を活かし、「ドライバー目線」で状況を判断し、ナビゲートします。
お互いに“命を預けあう”信頼関係がなければ務まらないものです。

つまり、カンパニープレジデントやグループ企業のトップを経験した副社長と各分野のエキスパートである社外取締役や役員が、私のコドライバーとして、「社長目線」で、ナビゲートしながら、より速くゴールを目指すやり方に転換するということです。

本年1月以降、既に、副社長や役員を中心に現場を巻き込んだ様々な活動が動き出しております。これからのトヨタの変化にご期待ください。

今の状況は、80年前と似ていると思います。
豊田喜一郎は、トヨタグループを織機から自動車をつくる企業グループにモデルチェンジすることに挑戦いたしました。

そして、今、私たちもまた、企業グループのモデルチェンジを目指します。
この闘いは自分たちのための闘いではなく、未来のモビリティ社会をつくるための闘いであり、未来の笑顔のための闘いです。

「継承者こそ、挑戦者でなければならない」との覚悟をもって、失敗を恐れず、よいと思うことは何でも挑戦してまいります。
うまくいかないこともあると思います。
むしろ、うまくいかないことの方が多いかもしれません。

是非とも、私どもの新たな挑戦をご支援いただきますようお願い申しあげます。

ありがとうございました。