NEDOと38法人、全固体リチウムイオン電池の第2期研究開発へ


産学官の力が結集する体制を構築し、EV用途での早期実用化を目指す

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、世界各国でモビリティの電動化に向けた動きが活発化する中、高エネルギー密度化と安全性の両立が可能な蓄電池として注目されている全固体リチウムイオン電池を早期実用化するための研究開発プロジェクトの第2期をスタートさせた。

図1 全固体リチウムイオン電池の構造
図1 全固体リチウムイオン電池の構造

このプロジェクトは、自動車・蓄電池・材料メーカー23社及び大学・公的研究機関15法人が連携・協調し、全固体リチウムイオン電池のボトルネック課題を解決する要素技術を確立しつつ、プロトタイプセルにて新材料の特性や量産プロセス・EV搭載への適合性を評価する技術を開発するもの。

また日本主導による国際規格化を念頭に置いた安全性・耐久性の試験評価法も併せて開発する。さらに研究開発と並行して、電動車両が大量普及する将来の社会システムのシナリオ・デザインを検討していく。

図2 EV用バッテリーの技術シフトの想定
図2 EV用バッテリーの技術シフトの想定

開発の経緯は、今後、主要各国で自動車のCO2排出・燃費規制が強化される見込みであること。近々にモビリティの電動化が進展することが予想されるため。

これを踏まえ多くの自動車メーカーが2020年代には、年間数百万台規模で電気自動車(EV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)を販売する計画を発表している。

そうした中、EV・PHEVの利便性(航続距離、充電時間など)と価格の支配要因となっているのが車載用バッテリーであり、高エネルギー密度化による性能向上とコスト低減が強く求められている。

しかし現行のEV・PHEVには、有機の電解液を使用するリチウムイオン電池(LIB)が使用されており、そのエネルギー密度と安全性はトレードオフの関係にある。

それゆえに一歩間違えると発煙・発火の危険性がある。これに対して、図1に示すように、無機の固体電解質を使用する全固体LIBでは、固体電解質の難燃性および熱的・化学的安定性を活かし、エネルギー密度を高めても安全性・耐久性を確保できる。

またバッテリーパックの冷却システムや発煙・発火時の排気システムなどを簡素化し、体積エネルギー密度を向上させることも可能だ。加えて全固体リチウムイオン電池であれば、EV充電時間が10分以下となるような超急速充電の実現可能性もある。

しかしその一方で、全固体リチウムイオン電池は期待どおりの性能を発現させるためのボトルネック課題も多い。加えてセルの構造、材料構成、製造プロセスなどの基本コンセプトが固まっていないため、実用化に向けた研究開発も未だ非効率である。

このような経緯からNEDO事業「先進・革新蓄電池材料評価技術開発」の第1期(2013~2017年度)では、全固体LIBの標準電池モデル(200mAh級単層ラミネートセル)と同モデルを用いた材料評価技術を開発。

企業や大学などが、全固体LIB用に開発した固体電解質や電極活物質などを受け入れて評価を行い、その評価結果をサンプル提供者にフィードバックする取り組みを行ってきた。

特に今般スタートした第2期事業では、材料の基本特性を把握するものだった第1期の成果を発展させて、大型化・高容量化した標準電池モデル(Ah級積層ラミネートセル)と同モデルを用いた材料評価技術と、EVへの搭載可否や量産プロセスへの適合性も含めて評価技術をより高度化を開発していく構え。

そこで委託先の「技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター」(LIBTEC)には、組合員として自動車・二輪車メーカー4社、蓄電池メーカー5社、材料メーカー2社が新たに参加。また大学・研究機関14法人も新たに委託先として参加し、LIBTECと連携していく。

なお図2に示すように、EVバッテリー市場においては、現在、研究開発が先行している硫化物系固体電解質を用いた第1世代全固体LIBが2020年代後半より主流になり、その後、高イオン伝導性の硫化物系固体電解質または化学的安定性の高い酸化物系固体電解質を用いた次世代全固体LIBが2030年代前半より主流になると想定している。

そこで第2期では、第1世代全固体LIBと次世代全固体LIBの両方を対象として研究開発に取り組んでいくと云う。

事業の内容
【1】事業名:先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)
【2】事業総額(予定):100億円
【3】期間:2018~2022年度
【4】研究開発内容:
(1)共通基盤技術開発
固体電解質の量産・低コスト化合成、電極活物質への電解質コーティング、電解質層・電極層のシート成形といった全固体LIBの大型化・量産化のボトルネックとなっている要素技術を開発する。

また全固体LIBに用いる新材料・部品を組み込み、セルとしての性能・耐久性・安全性を評価することで、新材料・部品の得失、技術的課題およびセル量産プロセスへの適合性などを把握するための標準電池モデルとその作製仕様書および性能評価手順書を策定する。

さらに全固体LIBのセルおよびバッテリーパックの不安全化・劣化・熱的挙動を計算機シミュレーションによって予測する技術の開発、日本主導による国際規格化を念頭に置いた耐久性・安全性の試験評価法の開発などに取り組む。

(2)社会システムデザインの検討
全固体LIBおよびEV・PHEVに係る国内外の政策・市場・研究開発動向の調査・分析を行い、EV普及を見据えた将来の社会システム全体のシナリオ・デザインを組み立てながら、「(1)共通基盤技術開発」と連携して研究開発を進めていく。

シナリオの構築にあたっては、充電インフラ整備、資源制約、3R(リデュース、リユース、リサイクル)などへの対応も視野に入れた低炭素化社会のシナリオ・デザインを検討する。

委託先は以下の通り。
技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)【代表機関】
(該当事業に参画する組合員企業)(順不同)
トヨタ自動車(株)、日産自動車(株)、(株)本田技術研究所、パナソニック(株)、(株)GSユアサ、日立オートモティブシステムズ(株)、マクセル(株)、(株)村田製作所、ヤマハ発動機(株)、旭化成(株)、JSR(株)、住友金属鉱山(株)、大日本印刷(株)、凸版印刷(株)、東レ(株)、(株)日本触媒、富士フイルム(株)、三井化学(株)、三菱ケミカル(株)、(株)クラレ、日産化学工業(株)、出光興産(株)、三井金属鉱業(株)の23社。
(国研)産業技術総合研究所、(国研)物質・材料研究機構、(国研)理化学研究所、(地独)大阪産業技術研究所、九州大学、京都大学、群馬大学、東京工業大学、豊橋技術科学大学、名古屋大学、兵庫教育大学、北海道大学、大阪府立大学、甲南学園、(一財)日本自動車研究所。