NEDO・トヨタ・東京工大、リチウムイオン電池を大きく超える全固体電池を開発


NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構・所在地:神奈川県川崎市幸区大宮町1310番、理事長:古川一夫)とトヨタ自動車、東京工業大学の研究グループは、過去最高のリチウムイオン伝導率を有する超イオン伝導体を発見。

これを応用して、リチウムイオン電池の3倍以上の出力特性をもつ全固体電池の開発に成功した。

なお今研究成果は、英国の科学誌「ネイチャーエナジー(Nature Energy)」電子版に掲載された。

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1.概要
NEDOでは、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の次世代自動車に搭載する蓄電池について、高性能化、信頼性・安全性の向上、低コスト化を図ることを狙いとして、「リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業」(2012~2016年度)を実施してきた。

今プロジェクトでは、電極・電解質等が全て固体で構成されるため、高エネルギー密度化、使用温度域の制限緩和、発火危険性の抑制を同時実現する可能性を有した全固体電池※1を世界に先駆けて実用化するための研究開発を推進している。

そうしたなか同プロジェクトに於いて、トヨタ自動車と東京工業大学の研究グループは、従来のリチウムイオン伝導体の2倍という世界最高のリチウムイオン伝導率を有する超イオン伝導体※2を発見した。

また、発見した超イオン伝導体を応用して、リチウムイオン電池の3倍以上の出力特性をもつ全固体電池の開発に成功した。

開発した全固体電池は、現行の有機電解液に比べて3倍以上の高出力特性を示すとともに、低温及び高温での優れた充電受入性や充放電サイクルに対する耐久性を示している。

2.今回の成果
(1)世界最高のリチウムイオン伝導率を示す超イオン伝導体を発見
トヨタ自動車(株)と東京工業大学の研究グループでは、これまでの全固体電池の特性が現行の有機電解液を用いたリチウムイオン電池に比べて劣る状況を解決するには、優れた固体電解質材料を見出すことが重要であり、超イオン伝導体として高いリチウムイオン伝導率の期待できる硫化物材料を探索してきた。

その結果、「Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3」(リチウム・シリコン・リン・硫黄・塩素)と、広い電位窓※3を持ち、リチウム金属負極の電解質として利用できる「Li9.6P3S12」を発見した。

発見した超イオン伝導体「Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3」は、室温で25mS・cm-1(1センチメートル当たり25ミリジーメンス)の極めて高いリチウムイオン伝導率を示している(図1)。

また、「Li9.6P3S12」はリチウム金属負極に対しても安定に作動して、全固体電池の電解質として優れた材料であることが分かった。

(2)超イオン伝導体を利用した全固体電池が最高の出力特性を達成
発見した超イオン伝導体を利用して全固体電池を試作し、現行のリチウムイオン電池と比較して、室温で3倍以上の高速の充放電が可能であることを実証した。

また、低温(-30℃)や高温(100℃)でも優れた充放電特性を示しました。特に、現行のリチウムイオン電池では作動することが難しい100℃という高温環境下で、3分間での高速充放電を1,000サイクル以上安定して行えることも確認している。(図2)。

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図1.発見した超イオン伝導体(Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3とLi9.6P3S12)のイオン伝導率の温度依存性。従来のリチウムイオン伝導体Li10GeP2S12とその類似構造を持つ物質と比較して示す。

Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3のリチウムイオン伝導率は室温(27˚C)で25mS・cm-1を示し、従来のリチウムイオン伝導体Li10GeP2S12の2倍の伝導率が判る。

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図2.開発した全固体電池の特性
a.高電圧型と高出力型の放電特性。1Cは1時間の放電率を表す。室温では60C(1分での放電)、100℃では1500C(2.5秒)での放電が可能であることを示している。

b.高出力型の全固体電池の充放電特性。
c.高出力型の全固体電池の100℃での耐久性試験。500-1000サイクルに及ぶ充放電試験においても劣化が殆ど無いことを示している。

図中、○(黒)は充放電効率、△(青)は充電容量、□(赤)は放電容量を示す。

3.今後の予定
設計自由度や安定性・信頼性の向上によって電池パックのコンパクト化や軽量化が可能になることが、全固体電池の利点であると考えられていたが、今回の有機電解液を上回るリチウムイオン伝導率を有する超イオン伝導体の発見により、現行のリチウムイオン電池では実現できなかった高速充放電も可能であることが明らかになった。

今後、全固体電池の実用化を目指した研究開発の加速が期待される。

※1 全固体電池
電池の構成部材である正極、電解質、負極を全てセラミックなどの固体で構成した電池。電解質を一般的な有機電解液から固体電解質に置き換えることで、さらなる安全性の向上が期待されている。主に固体電解質のリチウムイオン伝導率が低いことが原因で出力特性に課題を有する。

※2 超イオン伝導体
固体中をイオンがあたかも液体のように動き回る物質。リチウムイオン伝導体では1mS・cm-1程度が最高とされてきた。

※3 電位窓
電解質が安定に動作する電位の範囲。動作範囲が広いほど、正極と負極の組み合わせを工夫して高電圧の電池を作ることができ、電池のエネルギー密度を上げることが可能になる。