工学院大学の豪州ソーラーカーレース挑戦、世界最速の栄冠を求め参戦クラスを変更


工学院大学(所在地:東京都新宿区/八王子市、学長:佐藤 光史)のソーラーチームは6月29日の新宿キャンパスで、2017年秋にオーストラリアで開催される世界最大級のソーラーカーレース「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ2017(WSC)」(開催期間:2017年10月8~15日)参戦を前に未公表だった最新鋭マシンの記者披露会を行った。

壇上でベールを被った新型車両を前に、「学生のチャレンジが大学の理念と共に大きく成長した」と述べる佐藤学長の挨拶にはじまり、同学名誉博士の根岸英一氏(2010年ノーベル化学賞受賞)が米国からソーラーチームへビデオで応援メッセージを寄せた。

これに続いて数多くのサポート企業の中から、帝人株式会社の内川氏(帝人グループ執行役員マテリアル事業統括補佐)がチームへの激励のメッセージを述べた。

その後、学生チームのキャプテンである中川拓朗さんからチームの紹介等があり、メンバーによるアンベールが行われた。

登場した車両は、前年度の双胴型とは大きく異なるもので、その「Wing(ウイング)」の名前通りの炭素繊維に包まれたコンパクトなボディ上部に、そのまま風を受けて走っているかのようなサンパワー製の太陽光パネルが、ルーフ上でたなびく流麗なデザインとなっている。

コクピットには、1名のドライバーがレーシングカーに近いポジションに着座し、それをカーボンファイバーのパネルと、先にGLMが「トミーカイラZZ」搭載で発表したピラーレスのフロントウインドウにも使われた高強度ポリカーボネートの真空成形スクリーンが覆う格好だ。なおこのスクリーン成形は植木プラスチックが手掛けた。

ドライバーは、コクピット内で車両が発生する騒音の影響を避ける為、ノイズキャンセリング機能と通信機能を持たせたシバントス提供の補聴器を利用し、伴走のサポートカーとの意思疎通を図る仕組みだ。

昨年度は、レース中常に最速タイムを記録しながらも、極端に言えば、乗用車に近い居住性など実用性を競う「クルーザークラス」ならではの総合得点の積み上げで涙を呑んだ同チーム。

今年は絶対的な「速さ」が勝敗の鍵を握るレーシングカーに近い仕様が認められるチャレンジャークラスにスイッチした。

このためトレッド、ホイールベースは、1名の乗員のための空間確保と、130km/hの高速度域に於ける安定性を両立した最小配置となっており、丸みを帯びたスタイリングは、オーストラリアの大地に於ける横風等の影響を考え、優れた空力特性を追求したと述べていた。

なお今年の車両披露会の会場にはソーラーチームの応援大使に就任した足立梨花さんが登壇し、学生キャプテンの中川さん・女性ドライバーの石川さん・監督の濱根准教授と共にトークショーを行った。

チームは7月の中旬にテストコースで試走を行う予定で、8月にはレース開催の地、オーストラリアへ船便で車両が輸送される運びとなっている。

ちなみに既に日本人にもお馴染みとなった「2017 Bridgestone World Solar Challenge (ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ)」は、太陽光のみを動力源にオーストラリア北部のダーウィンから南部のアデレードまでの総延長約3,000kmを、約50台程の最新鋭車両が約5日間掛けて走破する国際的なソーラーカーレースである。

このなかでも同校が今年参戦するチャレンジャーカークラスは、まさに名実共に世界一速いソーラーカーを決めるカテゴリーとなる。

なお学生自らが作り出す「ソーラーカーレース」への取り組みは、車両をメインに扱う技術部、サポート企業との調整や広報を担う運営部、会計全般を管理する財務部に分類され、その役割を学生各々が担当する。

これらは学生の能力の広がりと、多様化する社会・産業と学問の組み合わせという面で無限の「学び」の環境があり、様々な形で社会に貢献するような自己実現の達成を、このチャレンジを通して、それぞれの学生達が自己実現を目指して行く。

■車両スペック
・1人乗り、単胴型 (全長4,990mm x全幅1,050mm x 全高1,070mm)
・4輪、 4WS、前輪:マルチリンク&プルロッドサスペンション、後輪:マルチリンク&リジットサスペンション。
・モータ:アモルファスと平角線を使用したホイルインモータ、オートクルージング機能を搭載。
・ソーラーパネル(羽部分):3D曲面太陽電池、シリコン太陽電池 4㎡搭載。
・新レギュレーションを生かした“オンリーワン”のデザイン設計は、太陽電池面積が縮小(6㎡→4㎡)、車体寸法制限が大型化(全長4.5m×全幅1.8m→全長5.0m×全幅2.2m)するなど、今大会の大幅なレギュレーション変更に添ったものとなっている。

車両名に込められた想いは、開発コンセプトに表現されており、それは“私たちの羽は自然と共に未来へ”

車両の特長となるソーラーパネル部分の羽(Wing)は、自然界の美しいデザインを模した3D曲面。“自然との共存”と、若きエンジニアが“将来に羽ばたく”ことを意味して命名されていると云う(坂上 賢治)。

動力源には、日立金属のアモルファス合金コアを利用したミツバ製モーターを搭載。長時間走行で速度調整の疲労を軽減するため、速度を一定に保つ機能を実装。モーターの回転速度を一時的に高められる可変界磁機構を用いて他車と競った時のアドバンテージを確保した。

■工学院大学のWSC 2017参戦スケジュール
2016年:
11月末:新車両設計終了
12月末:~型切削
2017年:
2~3月:成形作業
4月:組み付け
5月:車両完成(風洞、試走、調整)
6月:車両公開の記者発表会予定
8月:ソーラーカーを豪に輸送
9月:下旬先発隊、豪へ出発
10月:上旬現地で車検
10月8~11日:WSC 2017本戦開幕
10月15日:表彰式
10月18日:早朝、メンバー帰国

■工学院大学ソーラーチーム概要
学部や学科の枠を超え、現在の部員数226名で活動中。“50年後の未来を考えた地球の持続的利用”を理念に、車両の開発・設計から製作、レースでの走行など全てを学生主体で行っている。

■主な戦歴
2010年 8月
ワールド・グリーン・チャレンジ(国内)
1号機は当時世界初となる4輪で初出場、約600kmを走破。
2011年 8月
ワールド・グリーン・チャレンジ 準優勝
前回大会の経験を生かし約900kmを走破し準優勝の躍進。
2012年 8月
ワールド・グリーン・チャレンジ 優勝
ソーラーカー部門とチャレンジクラスで優勝、2冠制覇。
2013年10月
ブリヂストン・ワールド・ソーラーチャレンジ
2号機Practiceを製作し参戦。完走できず途中数カ所でトレーラー搬送。
2014年 8月
ワールド・グリーン・チャレンジ 優勝
台風の影響でレース時間が大幅に減少するも、断トツの成績で優勝。
2015年10月
ブリヂストン・ワールド・ソーラーチャレンジ 準優勝
3号機OWLを製作し参戦。レース走行はトップでゴールしたが総合順位で準優勝。
2016年 8月
ワールド・グリーン・チャレンジ 優勝
大会新記録樹立、チーム史上初・女性ドライバー誕生。